くだらない。馬鹿みたいだ。

自分の手はとうに血塗れだと誰よりも分かっているはずなのに。

そう、この背に背負う正義の証と供に。

 

 

背負う十字の意味

  

誕生日なんてものを祝う年齢ではない。

いや、生まれてから、自分ですら気にしてなどいなかった。

ただ、誰ともなしに送られてくるものの山で気付く…毎年のことだ。

 

“よぉ!今年も盛大だなァ!”

“…何のことで、長官?”

“何言ってんだよ!今年も誕生祝いが送られてきてんぞ!全く、自分の生まれた日ぐらい覚えとけよ”

“生憎と、在るモノを消すことのほうが愉しいもので”

 

エニエス・ロビーに帰って早々。

上司に報告をすれば、そんなものいいから、と遮られて。

これだけでも腹立たしいのに、遮った理由が「誕生祝いの置き場」についてだとは。

まったく、あまりの低俗さに溜め息すらでない。

大体、そんなもの気にかける暇があったら、少しでも珈琲を零さないとかいろいろあるだろうに。

 

「馬鹿馬鹿しい」

 

長官の執務室から出ると、ルッチは丹精な顔を歪めて天を仰いだ。

尤も、それで映るのは無機質な天井のみだったが。

 

 

 


がちゃり。

重厚な作りの扉を開け、部屋を見れば…。

 

「………邪魔だな」

 

山のように積まれた“プレゼント”らしきものが。

無造作に手にとって見ると、それは形ばかり知り合いの海軍上層部からだったり、名前も知らないような女性からだったりするものばかりだ。

…しかし、『存在するはずのない正義』として暗躍する定めにある人間が生まれた日がそんなにめでたいというのだろうか。

こんなに仰々しくされてもうっとおしいだけなのだが。

 

“誕生日おめでとう”

“貴方が生まれたこの日が人生で一番嬉しい日です”

“これからの更なる活躍を期待する”

 

形式ばったコメントの散りばめられた、目障りなカード。

 

 

「めでてェのは、貴様らの頭の中身だ、バカヤロウ」

 

ぐしゃり、とルッチの手の中で紙が潰される音がした。

 

 

 

その山を蹴り崩して、どうにか応接のスペースを空けると、帽子ごとハットリをデスクに置く。

いつも以上に口数の少ない主を思ってか、ハットリも無暗に鳴声を上げない。

その頭を一つ撫でると、ルッチはとりあえず気を休めたい、とバスルームへ向かった。

 

 

 

少し熱い位の湯の雨を浴びて、少しばかり気が落ち着いた。

馬鹿馬鹿しいと思ってはいるが、それで騒ぎたいなら好きにすればいい。

所詮自分には関係のないことだと、と客観的に判断した。

 

そうしてぶるりと髪についた水滴を払い、服を身につける。

着衣の途中、姿見に映った自分の背には、確かにあの時のまま残った十字があった。

だが、その自分の手に滴るのは、水ではなく体液。

 

「…っ!?」

 

驚いて自分の腕を見ると、そこに流れていたのは透明な液体で。

これを血と見間違えるなんて自分も大概どうかしている、と苦笑した。

 

 

 

「うわ、オマエどんだけナルシストだよ」

「!?」

 

不意に、横から声が掛かった。

しかも、聞き覚えがありすぎるぐらいの声。

この自分が気配に気がつかなかったのか、と振り向けば、そこには半眼を向けるジャブラの姿が。

 

「これはこれは、野良犬は人様の部屋に入る礼儀も知らんらしい」

「その言葉、そっくりそのまま返してやる」

「ん?」

「鍵が開いてたから入っただけだっての!どっかの育ちのいい化け猫様みたく、鍵の開いてない部屋に堂々と侵入したりしてねェよ」

「成程」

「しっかし、毎年毎年すげェ量だなァ、ぎゃはは!!」

「別に」

「あのなァ…せっかく誕生日祝ってもらってんだから、ちったァ喜べっての」

「馬鹿馬鹿しい…存在しない殺戮兵器が誕生したことの何がめでたい」

「………は?」

「俺がこの背に背負うのは、闇の正義だ。くだらねェ感情なんぞ必要ない」

「………オマエ結構馬鹿だったのかよ」

「なんだとっ!?」

「確か…十字架ってのァ、神に愛されてる証だ狼牙」

突然現れたと思ったら、何を言い出すのだ、この男は。

 

「オマエが今、十字を背負ってんのも運命なんだよ、つーか祝福のアカシっての?」

「………戯言だな」

「んなら、それが殺戮の証だっつーのも思い込みだろ。どーせはら自分に都合よく解釈すりゃいい」

 

まさか、ジャブラの口からこんな台詞が飛び出してくるとは思わなかった。

 

「随分と、ロマンチストなようだ」

「ぎゃはは!どうせなら哲学家って言ってくれ」

「冗談」


 

本当に不思議なものだ。

憂鬱で仕方ない1日になりそうだった今日が、この男のせいでがらりと変わってしまう。

まぁ、それでこれほど気分が浮上する自分も随分と現金だと苦笑せざるをえないが。

 

「で、その哲学家な野良犬殿から祝儀はあるのか?」

「…てめェらしくねェ暗い顔なんとかしたら、な」

 

抱きつこうとした腕を払いながら、何とも核心をついた台詞を吐いて、にかっと笑う。

そんなに酷い顔をしていたのかとオドロキながらも、思いのほか博識な先輩の言に従った。

 

 

FIN

_ _ _ _ _ _ _ _ _

 

そんな訳で、ルチ誕小説です。

暗めなのが申し訳ないですが、祝う気マンマンですとも!!

ちょっと初心に戻って格好よくしたかったんです!!

 



 

おまけ

ルッチ「………」

 

スパンダム「遅いぞールッチ!!」

カリファ「私を待たせるなんて…無礼者」(眼鏡クイ!)

クマドリ「よよいァ、早くすわってぇくれぇ…」

フクロウ「ちゃぱぱーパーティーなのだー」

ブルーノ「祝い事は大勢の方が盛り上がるだろ」(溜め息)

カク「そじゃの♪」(ジャブラと二人きりにはさせんぞー、とにこにこ)

いや、だから、そーじゃなくて。

ルッチ「…ジャブラ?」

ジャブラ「んァ?」

ルッチ「何だ、この騒ぎは」(額に青筋)

ジャブラ「何って…ぱーてぃー?」(小首かしげ)

ルッチ「どこら辺が祝ってんだ、バカヤロウ!」

ジャブラ「っつっても、料理全部俺が作ったんだぜ?」(嫌か?)

ルッチ「え…」(ちょっと嬉しい)

 

カリファ「ジャブラー!ルッチなんかほっといて乾杯しましょう」(にっこり)

スパンダム「え、それ本末転倒じゃ…」

カリファ「セクハラです」(しれっと)

スパンダム「え、反論したから!?」(がぼーん)

クマドリ「よよい、カリファの無礼、ここァひとつ俺の切腹…」

ジャブラ「止めとけ、祝いの席で」

フクロウ「ちゃぱぱー腹減ったのだ」(自由人)

カク「いらんならルッチ部屋に帰ったらどーじゃ?」(にっこり)

ブルーノ「いや、カク…それはちょっと…」(滝汗)

ルッチ「いる!っつーか俺の誕生祝いだ、それはっっ!!」(慌てて着席)

 

スパンダム「じゃ、まぁルッチの誕生日を祝ってェ…っっ」

 

全員「「「「「「「「乾杯〜っ!!」」」」」」」」

 

はっぴーばーすでー、ルッチ♪

 

 

 


ネロ「シャウ!何で俺だけ仕事っしょ!?」(滝涙)

 

…お後がよろしいようで(笑)