扉絵連載Vol.8「医療費興行 ジャブラ&ブルーノ猛獣ショー」からの妄想です。

ネタバレになりますので、観覧は自己責任でお願いします。

 

 

 

「っつぅ…っ!」

 

川で腰布を水で浸して背中につけると、びりっと痛みが走る。

それに眉を顰めながら、金銭がないのがこんなに惨めなことなのか、と夜空を仰ぐ。

………こんな時ですら、月は明るいなんてな、と自嘲気味に笑いながら。

 

 

良い男

 

 

生存者ゼロの島、エニエスロビーからの逃亡。

海列車の線路を辿るなんて海に嫌われた能力者ばかりで阿呆な真似をしたと本気で思う。

それでも、その成果があって現在があるのだが。

何より驚きなのは、自分の中にこれほどまでに生への執着があった、ということだろう。

 

着いたのは、春の女王の町「セント・ポプラ」。

それでも、医療費すらままならず、本当に辿り着いただけだった。

 

で、医療費を稼ぐための興行なんてのをやってる訳だ。

ルッチはまだ昏睡状態で、カクも衰弱しきっている。

先陣をきって興行をしたクマドリは好評だったようで、なら自分は何ができるか考えた。

そして思いついたものは、酷く屈辱的だったのだけれど。

…悩んでいる時間はない。一分一秒でも早く稼がなければ。

 

ブルーノに進行をまかせ、狼の姿を保ったまま見世物を行った。

さしずめ、猛獣の日の輪くぐりといったところか。

しかし、人の多いこの町で、子どもから大人にまで好評で、サービスにわざとぎりぎりのところをくぐって背中を燃やしてみせたりもした。

鳴呼、まともに金を稼ぐには、こんなにも大変なのかと実感しながら。

 

 

「くそっ」

 

悪態を吐き捨てながら、火傷をおった首から背にかけてを冷水に浸した布で冷やす。

 

“ちゃぱぱ…大丈夫か?”

“よよいっこりゃァ、結構な怪我だァ…なぁ!”

“馬鹿か、おめェらとは鍛え方がちがうってのっ!”

 

大丈夫か、と心配するフクロウやクマドリに対しては軽口を叩けたのだが。

夜になってみると、寝返りも打てないほどに悪化していたのだ。

とはいえあれだけ大口を叩いたのだし、誰かに見つかったら情けないことこの上ない…

 

「……大丈夫か?」

「っ!?」

 

突如聞こえた声に振り向くと、そこにはエアドアから身体を乗り出したブルーノがいた。

 

 

 

「なななな、何でここにっ!?」

「能力を使ってお前を追っただけだぞ?」

「いや、そんなさらっと言われても…困るだ狼牙」

「それより背中見せてみろ」

「は?いやいやいや、平気だって!!」

「うるさい」

 

ぺと、とブルーノの大きな手が背中に触れた。

 

「ひ…ぎぃぃ……ぁっっ!!」

「ほらみろ、痛いんじゃないか」

「てめ、殺されてェのかっっ」

「いいから動くな」

「?」

 

とりあえずなにやらごそごそしだしたので、ブルーノの様子を伺う。

すると、なにやら緑色をした植物の皮をむき出した。

 

「おい」

「何だ?」

「それどうしたんだよ」

「あぁ、アロエか?」

「まさか、あの少ない金でそんなもん買ったんじゃねェだろうなァ」

「…そうだと言ったら?」

「馬鹿かっ!?優先順位が違ェだ狼牙!!

ルッチとカクを医者に診せるとか、カリファに服買ってやるとか!!」

「くっくっくっそんなに仲間想いだとはな、やはりオマエは良い男だな」

「てめェ…おちょくってんのか?」

「いや、褒めたんだが」

「褒められた気しねェよ」

「まぁ、これはもらいもんだ」

「もらいもん?」

「何でも、夜になって親子連れが“さっきの狼さんにあげてね”と」

「………」

「よし、ちょっと染みるぞ」

「〜〜っっ!!!!!!」

「我慢しろ」

 

暴れそうになるのを必死に堪えるジャブラを尻目に、ぺたぺたとアロエの内側の実を貼っていく。

包帯がないので、ジャブラが手にしていた腰布をしっかり絞り、それで巻いて固定をした。

 

 

 

「よし…これできつくないか?」

「あー…丁度いいわ」

「そうか」

「…………ブルーノ」

「何だ?」

「意外に世の中捨てたモンじゃないな」

「あぁ」

「……さんきゅ」

「…礼をいうのはこっちの方だ」

「んァ?」

「オマエにばかり無理な役回りがいく」

「バッカ、客あたりはオマエのがいいんだ、適材適所だっての」

「………」

「おい、ブルーノ」

「ん?」

「言うなよ」

「…何をだ??」

「俺は平気だったんだからな。痛くもねェし、痛がってもねェしっっ!!」

「あぁ、そうだな」

「だから、余計なこと言うなよ」

「心配かけたくないんだな」

「………違ェっての」

「鳴呼すまない、野暮なことを言った」

「〜っ!!やっぱお前、腹立つ男だな」

「オマエは底抜けに良い男だがな」

 

ぽんぽん、と頭を撫でられる。

これも嫌いだ、俺のが年上なのに、コイツのが包容力があるのが悔しい。

 

「ブルーノっっ!!!」

「何だ…?…っ!?」

 

圧し掛かるように押し倒して、そのままキスを一つ。

まぁ、この暗さじゃ誰も見てないだろうしな。

 

「余計なこと言わねェように、口封じだ」

「随分と可愛いらしい真似をするんだな」

「な、か、かわい…ぃっ!?」

「心配しなくても言いはしない」

「本当か!?オマエ良いヤツだな!!」

「…言ったら勿体無いからな」

「?何か言ったか??」

「いーや、やっぱりお前は良い男だといったんだ」

「ぎゃはは!当たり前だ狼牙!!」

 

やっぱブルーノは話の分かる奴だと思う。

安心したのと、火傷が痛くなくなったのとで、なんだか心が軽くなった。

伸びをしながら上を向くと、やっぱり空には丸い月。

あの島にいて麻痺したままだと、なかなか見る機会のないもの。

明るい明るいその月は、何だか笑っているように見えた。

 

さァ、明日は何して稼ごうか。

 

FIN

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ルッチ「ズルい」(机、ばーん!)

カク「卑怯じゃ」(机、どーん!)

カリファ「セクハラね」(眼鏡クイ!)

ジャブラ「は?」(小首かしげ)

ブルーノ「何がだ??」(小首かしげ)

ルチ&カク&カリファ「何でブルーノとジャブラで興行!?」

ジャブラ「んなもん、動ける奴でやっただけだ狼牙」(半眼)

ブルーノ「ルッチは倒れたまま、カクも動けないし、カリファにいたっては服装がセクハラ状態だからな」(きっぱり)

ルッチ「くそっ!根性が足らねェだろ、俺っっ!!」(起きろー、と本誌のルッチに念力)

カク「全くじゃ!ジャブラ絡みなら、根性で動いてみせんかいっっ!!」(動けー、と本誌のカクに念力)

カリファ「……フクロウ」(眼鏡キラーン)

フクロウ「ちゃ、ちゃぱ?」(嫌な予感)

カリファ「脱げ」(きっぱり)

フクロウ「な…っ!?」

カリファ「今すぐ身包み全部脱いで私に貸しなさいよ!!あの馬鹿二人が倒れてるうちにジャブラとイチャイチャするんだからぁぁぁぁ」(フクロウの頭、がくがく揺さぶり)

フクロウ「じゃ、ばばばば…」(泡拭き)

クマドリ「よよい、このままじゃぁ、フクロウが死んじまうぁぁぁ…」(必死にカリファを止めつつ)

ジャブラ「悪ィけど、ブルーノとしか興行する気ねェな」(ぎゅう、とブルーノの腕に抱きつき)

ブルーノ「………(嬉しい)」(ジャブラの頭なでなで)

ルッチ「なっ!?」

カク「何故じゃ!?」

カリファ「どーして!?」

ジャブラ「だってお前らの口上じゃ客が集まらねェだろ」(なー、とブルーノに同意求ム)

ブルーノ「確かにそうだな」(やはしジャブラの頭なでなーで)

 

ルチ&カク&カリファ「…」(敗北感たっぷり)

 

 

扉絵にCP9が戻ってきたこと。

ジャブラに異様にスポットが当たっていることから、ちょっと書きたいと思っていた。

そして、4月終盤のVol.8を見て思ったこと。

「か、書くしかねェ…っっ」

うん、魂が震えました。まだ読んでない方、単行本で楽しみにしている方で、万が一読んでしまって憤りを感じましたら、申し訳ありません(ぺこり)