甘いものは…得意ではない。

女やガキの食い物であって、自分の口には合わないのだ。

なのにどうしてだろう、俺の一番の好物は……この世で一番甘美。

 

 

Trap of halloween

 

 

「ぎゃはは…ハロウィンてのはいいなァ♪」

酒を片手に溢れるほどの菓子を抱え、ジャブラはご満悦だ。

お祭り好きな長官がこのイベントに食いつかないはずはなく…。

ハロウィンの夜は無礼講の大パーティーとなった。

 

色とりどりの飾り付けに、そこら中で飛び交う“Trick or Treat?”の台詞。

バカバカしい、と早々に引き上げて自室にいたわけなのだが。

 

どういう訳か、ジャブラの方からルッチの部屋を訪ねてきたのだった。

 

 

しかし、ソファの上で戦利品を眺めて浮かれているだけである。

一体何をしに来たんだ?

 

「貴様…人の部屋に乱入して、何が目的だ?」

「いやァ、オマエが早々に中座してたからよ…ちょっとからかいに」

「……馬鹿犬の分際でか?」

「誰が馬鹿犬じゃ、こらァ!!」

 

思ったとおりの反応。

これだから、オマエが俺をからかいにくるというのは無理があると思うがな

 

「んじゃ、ま…“Trick or Treat

「…ホールの時よりは発音がよくなったな」

「うるせェ!!…んで、どうするよ?」

「ん?」

「何か甘いもん寄越すのか、どうなんだよ」

「………ちなみに、イタズラする場合は何をする気だ?」

「てめェの部屋リフォームだな、匠もびっくりなぐらいよォ!!」

 

そう言って、どこに持っていたのか数種のペンキ缶を取り出す。

………本気で馬鹿か、コイツ?

 

「まさかとは思うが…」

「おう!てめェの部屋中に落書きしてやるぜ!!」

「ふざけるな、バカヤロウ!」

 

冗談ではない。

だが、コイツは絶対にやるだろう…馬鹿だからな。

ソファから身を乗り出して意気揚々と語るジャブラの額に、ポケットから取り出したものを投げつける。

 

「痛っ!何すんだよ!!」

「甘いものがご所望なのだろう?」

「え??」

 

ジャブラがぶつけられたものをまじまじと見た。

それは、数個のチョコレートだった。

 

「うわ…意外」

「何がだ?」

「てめェから甘ェもんが出てくるなんてよ…明日は雨か?」

「ばかばかしい催しのせいで、給仕に押し付けられたんだ」

「給仕ってもしや……ギャサリンちゃんか!?」

「…………違う」

「そうか、よかった」

 

とりあえず、ギャシーがルッチに渡したのでなければ安心できるらしい。

しかし、やはり面白くないとばかりに、それらの甘味を咀嚼する。

それだけでは収まらず、自分の持ってきた甘味でヤケ食いを始めた。

……酒を飲みながら。

あんなものをつまみにする神経が分からん

 

「………てめェも食うか?」

「いらねェよ、バカヤロウ」

 

見ているだけで胸焼けがする。

自分の部屋で食え、といえうと、てめェの嫌がる顔が見てェと抜かしやがった。

全く、ガキのようだ。

 

 

しばらくして、全てのものを食い終わったらしい。

両手いっぱいの量の甘味は、ジャブラの胃の中に消えたのだろう。

……まさか本当に完食するとは

 

「美味かった♪」

「………太るぞ?」

「け…女じゃねェんだ、気になんねェよ」

「………」

 

全く、口の減らない。

大体、人の部屋でこんなもの食い散らかして欲しくないのだがな…

見ると、鮮やかな色の包装紙が散乱していて…目に痛い。

それに反してすっかり満足げなジャブラの苛立たしいことといったら…。

 

「……人の部屋を散らかしやがって」

「んァ?……んぅっっ!?」

 

 

ボソリと一言呟くと、俺はジャブラの唇を己のそれで塞いだ。

突然のことで驚いたのか、ジャブラは目を白黒させている。

それに構わず、そのまま舌を絡めた。

 

 

「…オマエ、いきなり何すんだよ!!」

「…………甘い」

 

開口一番にでた台詞。

口内には、ジャブラの食べたものの甘さが広がっている。

………しかし、不思議と不快ではない。

 

「甘いって、んなの当たり前だ狼牙」

先刻まで、菓子食ってたんだからよと呆れたように続く台詞。

どうやら俺の安直なコメントへの呆れのほうが、怒りより大きいらしい。

まぁ、確かに菓子が甘いのは当然なのだけれど。

 

「ってか、急に何だよ」

「いや………俺も少し、ハロウィンを堪能したくてな」

「はァ??何言ってんだよ…っ!?」

 

?マークが頭の上を飛び交っているジャブラ。

俺は苦笑しながらジャブラをソファへと押し倒す。

 

「ちょ…っ!?」

「………Trick or Treat

「は?」

「貴様もさっき言っていただろう、イタズラが嫌なら甘味を寄越せと」

「あのなァ……全部食い終わってから何言い出すんだよ」

「別に、31日のいつ言うかは決まっていないのだろう?」

「そりゃまァ…そうだけどよォ……」

「それに………ちゃんとあるじゃねェか、最高に甘いものが」

「は?ドコにだ??」

「ここに」

「!?」

 

指差した先は、ジャブラ自身。

そう、別に俺は苦手な甘いものなんぞ欲しくはない。

欲しいのは、俺の一番の好物。

 

 

 

「菓子などいらん…貴様を喰わせろ」

 

 

そう言いながら、首筋に舌を這わせる。

 

菓子などよりも遥かに甘く…。

一度喰ったら病み付きになる……極上の味。

 

 

 

「ソレ……どう返事しても結果一緒じゃねェか」

 

逃げ道のないことを悟ったらしいジャブラが、諦めたように両腕を俺の首に絡ませる。

 

 

 

さァ……ここからが俺の宴の始まりだ。

 

FIN

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ルッチ「……やはり美味いな」(口の端、ぺろり)

ジャブラ「いちいち言うな、オマエは」(スリッパでどつく)

ルッチ「……情事の後ぐらい余韻を愉しませろ」(抱きつき)

ジャブラ「あ゛〜もう!言動全てがエロすぎるわ!馬鹿猫がァッ!!」(ぐいぐいと顔を押し返す)

ルッチ「素直じゃないな」(顔にあった手をぺろりと)

ジャブラ「〜〜〜っ!」(赤面っ!)

 

お気付きの方もいるようですが…くずのははハロウィンが大好きです。死ぬほどスキです。

ハロウィン最高!!

本日のロブ・ルッチさんはとても策士でスマートな感じに仕上がりました。

ちょっぴり甘めなイベントノベルでした★