別に、誰のことも気にしたことなどなかった。
それなのに、「あの光景」を見た時から、胸中で燻る感情がある。
これに一体何なのだろうか。
その感情には…
CP9も立派な政府の組織。
朝には、定例会のある日がある。
今日はたまたまその日で、珍しく9人揃うことができた。
だからどう、ということもなく、ルッチは手にした書類に目を通す。
別に、いつもと何ら変わりなかった筈なのだ。
「んじゃ、今回の任務はジャブラとカリファに頼んでいいか?」
「俺ァ別に構わねェよ」
「私も、異存はありません」
「そっか…じゃ資料渡さねェと…」
この会話も、別に不自然でも何でもない会話。
二人は長官の方に行こうと席を立つ。
揃って立つ姿は、なかなか様になっていて…悪くない2ショット。
別に、だからどう、ということでもないのだが、何か苛立ちに似たものを感じる。
ただの気のせいだと思い、全員の前に置かれたコーヒーに手を伸ばした。
淹れたてのコーヒーの香りは格別だ。
と…
「うぉぁあ…っっ!!!」
書類を探していた筈の長官の手から、コーヒーカップが離れる。
別に、コーヒーを零すのは長官の日課なのだけれど。
今日はカップごと手をすり抜けたらしい。
その白い陶器は弧を描き、中の琥珀色の液体も同時に宙を舞う。
…カリファの綺麗な顔に向かって。
「危ねェ!!」
「きゃ…っ!?」
バシャァ…ッ!!
その熱い液体は、カリファを庇ったジャブラの右腕に掛かる。
「熱っ!」
それは、みるみる袖口に染み込んでいく。
「だ…大丈夫っしょ??」
「ばァか…オマエとは鍛え方が違ェよ」
「長官はドジだ〜、チャパパ」
「うるせぇ!ちょっと滑っただけだ!」
「よよい!長官、ここァひとつ〜、オイラの切腹で怒りを静めて…」
「あなた…腕真っ赤じゃないの!!」
いつものクマドリの口上を遮ったのは、カリファの声。
見ると、袖口からちらりと見える部分すら真っ赤だった。
「いいから、早く脱いで!!」
「いや…別に平気だって…」
「早く!!」
カリファの剣幕に負け、上着を脱ぐと右腕は真っ赤に腫れていた。
「何で庇ったりしたのよ!!」
「いや、別に当然だろォがよ…」
「このくらいじゃ…冷えないわね…」
カリファが手にしたおしぼりくらいでは、冷えそうもない。
特に、衣服の張り付いていた箇所は、かなり痛々しかった。
「とにかく冷やさないと…」
「ちょ…ドコ行く気だよ?」
「医務室よ」
「って、任務の説明が…」
「長官」
「はいぃっっ!?」
「戻ったらすぐ話を聞きますので、退出しても?」
口調は疑問形だが、全身のオーラが断ることを拒否している。
眼鏡の奥の瞳は鋭く光っているようにすら感じるほど。
その威力はスパンダムにも十分効いて、カリファはジャブラの腕を取って会議室を後にする。
ルッチはその背を食い入るように見つめた。
「お…怒られるかと思った」
「シャウ!カリファさん、目がマジだったっしょ」
「チャパパ〜、カリファ強い!!」
「よよい!全くだァ〜」
残された人間の嘆き声など聞こえなかった。
胸の奥には、先ほどよりもさらに強い苛立ち。
それは、強く強く全身に回る。
苛立ちと呼ぶには…重過ぎる感情なのかもしれない。
こんなドス黒い思いが胸中を占めたことなど、初めてだった。
「…ジャブラも災難だな」
「全くじゃ…って、ルッチ?」
「………何だ?」
「何か、心ここにあらずって感じだな」
「ん〜、珍しいのぉ」
「別に…そんなことはない」
ブルーノやカクの台詞に、一瞬にして自分を取り戻す。
二人はまだ不思議がっていたが、それを否定し続けた。
涼しい顔をして、握ったまま口をつけなかったカップの中身を呷る。
その琥珀色の液体は、冷めて、香りも飛んでしまっていた。
飲み干すと、苦々しさが広がって、胃に重いような錯覚すら感じる。
「………」
こんな訳の分からない感情をいつまでも引きずりたくはなかった。
だから、読みかけの書類を再び手にする。
それでも、さっき見た光景が頭に浮かんでくるので、ルッチは煩わしげに頭を振った。
本当は、その感情にはちゃんと名前があるのだけれども。
それをルッチが知るのは…まだ後のこと。
もう少しだけ、後の話……。
FIN
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カリファ「全く、火傷はすぐに冷やさないといけないのよ?」(痕になるでしょ)
ジャブラ「別に、気にしねェよ…」(傷は男の勲章だぞ?)
カリファ「………何で…庇ったのよ?」(女だからってバカにしてる…)
ジャブラ「だって、顔に掛かったら困るだろ…せっかく美人なんだし」(他意なし)
カリファ「………ありがと」(…お人良しにも程があるわよ)
という訳で、椛様リクの『カリファとジャブラが仲良くするのを見て、嫉妬するルッチ』でした。
こんな感じにどこもくっついてない頃のお話になりましたが、よろしかったですか?
(リク内容に沿えてるか、とっても不安)
何かコメントなどありましたら、遠慮なく仰ってください★
素敵なリクエスト、どうもありがとうございました(ペコリ)
長々お待たせしてしまい、申し訳ありません(汗)