「うぅぅ…のどいて…ゴホッ」

「だから、無理すんなってんでしょうが!!」

「だってよぉ…ゲホゴホッ」

「いいから、他に感染す前にコレ食ってソレ飲んで寝るっっ!!」

 

………全くもって忌々しい。

 

 

恋する男の心模様

 

 

長官が風邪をひいた。

成程、バカは風邪をひかないというのは完全に迷信のようだ。

そんなことを思いつつ、とりあえず腐っても上司なので、わざわざ部屋まで赴いたのだが…。

中を見て、扉ごとぶち壊したくなった。

 

何せ、付きっきりで看病していたのがジャブラだったからだ。

 

カリファが当然のように見捨て、カクは端から面倒など看る気もなく…。

ブルーノとネロは任務に出ていて、残るクマドリとフクロウも看病できるタイプではない。

それは分かる。それはもう分かりすぎるぐらい分かるのだが…。

 

「ゴホッ……り゛んご、う゛さ゛ぎに……ぎっで……ゲホッ!」

「あ゛ーもう、うさぎにすっから、もう喋んなってっっ!!」

 

ドゴ…ッ!

その会話を聞いた瞬間。

島で一番の厚さを誇るであろう、長官の部屋の扉に指銃で風穴を開けた。

 

 

で、だ。話はそれで終わらなかった。

 

 

 

 

389分……完全に風邪ね」

 

貴方なら、ウイルスの方から裸足で逃げ出すでしょうに、と嗤いながら、カリファは笑顔で体温計の数値を読み上げた。

全くだ、何せこの俺が風邪をひくなんて、そんなバカなこと起きないと思っていた。

しかも、病原菌の出発点は、おそらくあの無能な長官である。

……まぁ、長官の看病に精を出すジャブラが憎らしくて、ここ2週間ほど夜中まで深酒したことで悪化したのだろうが……とにかく、だ。

今の自分の状態が忌々しくてたまらない。

 

「では、私はこれで」

「………あぁ」

「あら、長官のように、“看病してー”ってゴネないのね?」

「…するか、バカヤロウ」

「あら、じゃあ必要なかったかしら?」

「?」

 

そう言われて、朦朧とした頭にクエスチョンが浮かんだ瞬間、部屋の扉がノックされた。

 

「んだよ、馬鹿猫が風邪ひくなんざ、明日はこの島に夜来んじゃねェの?」

「そーね、だからそうならないように、さっさと看病して直してあげて頂戴」

「は?何だ、ソレ!?」

「私、忙しいもの」

「俺だって忙しいに決まってんだ狼牙!!」

「あら、じゃ貴方が長官に文字通り鞭打って遅れた仕事させてくれる?」

「………」

「ふふ、そういうことだから、後はよろしく」

 

にっこり花のような笑顔を浮かべ、カリファは扉に手をかける。

 

「あ、そうそうルッチ」

「……何だ」

「さっきのは、聞かなかったことにしてあげる」

 

一つ貸しよ、と嗤いながら、カリファはこの部屋を後にした。

 

 

「で、何でオマエまでぶっ倒れてんだよ」

「……知るかっ!……ゴホッ」

「あ゛ー、もう何でこう面倒ごとばっか俺んとこ来るかなァ…」

 

ボヤきながらも、手近に準備されていた氷水に浸したタオルを額に乗せてくる。

……確かに、この島で一番こういうことには向いてるかもしれない。

 

「薬は?」

「まだだ」

「……とりあえず、何か食うか?」

 

差し出されたのは、フルーツの籠盛。

何でも、長官からの見舞いらしい。

いちおう感染したことに関しては罪悪感があるようだとジャブラは言う。

 

「林檎でいい」

「ん、おっけ」

 

籠から一つ林檎を取り出し、手馴れた手つきでするすると剥きだした。

 

「ん、ほら」

「………」

「…何だよ」

「………」

「……食わねェの?」

「……うさぎじゃない」

「………は?」

「長官のときは、ッゴホッ……そうしていただろう」

「いや、そりゃそうだけどよ…食えりゃいいだろ?」

「ずるい」

「は???」

「何で長官にばかりそう甘いんだ、オマエは」

「甘いって…そりゃみんなそうだ狼牙」

「オマエは一体誰の恋人だ?」

「こっ!?……ぃや、その……お、めェ…の?」

「………なら俺に一番甘くしろ」

「は!?……いや、もういい、分かった!林檎剥き直すっっ!!」

 

これ以上会話するのが怖いとばかりに、ジャブラは差し出した皿の上にあった剥いたばかりの林檎を全部自分で食べる。

そうして、また器用に林檎を、こんどはうさぎの形になるように剥いた。

 

「……無駄に器用だな」

「喧嘩売ってんのか、てめェはっ!」

「…冗談だ…ゴホッ」

「いいから、さっさと食って薬飲め!」

 

ずい、と差し出された皿を受け取り、愛らしいカタチに切られた林檎を頬張る。

甘みと酸味が混じって、水分が傷んだ喉の流れ込む。

普段は甘味を食さないルッチだが、今日ばかりは素直に美味しいと感じる。

 

二つほど食べたところで、薬を飲みだすルッチを看ながら、今度はジャブラの方から話を切り出した。

 

「…なぁ」

「…何だ」

「おめェ……長官に嫉妬してたワケ?」

「……悪いか、バカヤロウ…ゴホッ」

「いや、何か…意外?」

「恋する男はこんなもんだ」

「こ、こぃ…っ!?」

「……何だ?」

「いや、恋って………悪ィ、何でもねェ」

「……ふん」

 

どうせ、不似合いだとでも言いたいのだろう。

そんなもの、自分が一番よく分かっている。

全く、ジャブラに惹かれてからというもの、自分の意外な面ばかりに気付く。…厄介だ。

 

「なぁ、ルッチ」

「……今度は何だ?」

 

呼びかけられて、一度は逆転させた体を半回転してジャブラの方に顔を戻す。

と…。

 

ちゅ…

 

「っ!?」

 

何やら、頬に、その……キスされたような気が…

ばっと離れるジャブラの顔を見ると、それは真っ赤に染まっていて。

 

「長官にゃ、こ、こここここ…ここまで、してやってねェかんなっ!」

「……そ、そう、か」

「と、とと、とにかくっ!こんなじゃ喧嘩もできねェしよ……さ、さっさと直せよっ!!」

 

寝ろ、とばかりに頭から布団を掛けられる。

全く、自分よりも年上だというのに、どうしてこう可愛らしい反応ができるのだろうか。

 

「み、水替えて来るっ!!」

 

ジャブラは、そのまま桶を持って洗面所へと走る。

 

「……知恵熱が出そうだ」

 

小声の呟きは、幸か不幸かジャブラには聞こえなかった。

ルッチは、風邪が治り次第、今度は自分の方から、それも唇に濃厚な口付けをしようと心に決めて、さっさと直すべく、興奮気味の自分を叱咤しながら無理矢理眠りに入っていった。

 

FIN

_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _

 

でもって数日後。

ルッチ「治った!」(胸張り)

ジャブラ「へーへー、そりゃよかったな」(遠い目)

ルッチ「オマエの献身的な看病のおかげだな」(しれっと)

ジャブラ「!」(ちょっとテレつつびっくり)

ルッチ「という訳で、きっちり礼を…」(ジャブラをがっちり抱きしめつつ)

ジャブラ「礼って…なっ…んん…ぅぅぅっ!!」(不意打ちちゅーにじたばた抵抗)

 

じっくりたっぷり3分後。

 

ジャブラ「てめ……何すんだよっっ!!」(真っ赤で涙目)

ルッチ「じっくりと感謝の気持ちを込めてキスしただけだろ」(しれっと)

ジャブラ「ふざけんなっ!そんなもん礼でも何でもねェし!ってか、あんなに舌突っ込んでくんな、バカ!!」(異議あり!と机ばんばーんっ)

ルッチ「……途中から抵抗せずに気持ちよさそうだっt……」

ジャブラ「馬鹿野郎ーっ!!」(久々のスリッパあたっく!)

ルッチ「?」(とりあえず反応が可愛いので殴られてみる)

ジャブラ「いいか、だからてめェは………くしゅっ!」

ルッチ「!」(嬉しそう)

ジャブラ「な、何だよその顔」

ルッチ「風邪か?」(じりじり近寄る)

ジャブラ「違うから気にすんな」(じりじり後退)

ルッチ「今度は俺が看病してやる」(じりじり近寄る)

ジャブラ「違うし、仮にそうだとしても、全力で遠慮すっから」(じりじり後退)

ルッチ「遠慮など必要ないだろう?」(剃!で捕獲)

ジャブラ「うわ、てめっ何脱がせようとしてんだっっ!!」(滝汗で抵抗)

ルッチ「いや、風邪のときは適度な運動が…」(真顔)

カリファ「教育的指導ーっ!」(鞭でびしばーしっ!)

 

あっという間にルッチを鞭でぐるぐる巻きに。

 

ブルーノ「……相変わらず、凄い鞭捌きだな」(遠い目)

スパンダム「っていうか、ルッチで意外とベタだよな」

カク「今の完全に下ネタじゃからのー」(粗茶、ずずっと)

 

という訳で、ヨウ様リクエスト『ルチジャブの甘々』でしたー。

いやぁ、何というか…ジャブラがちょっとオトメンになってしまったかも。

でもって、ルッチがへたれッチでごめんなさい。

とりあえず甘くできるだけ甘くしてみました。しかも、今回は巷で流行のツンデレにチャレンジ!

↑撃沈の香りがぷんぷんしますね★

ただ、ルッチとジャブラの年齢差考えると、こういう関係もイケそうな気がします。

時間的には、こう付き合いたてほやほやみたいなところでしょうか。

照れる二人は書いててとても新鮮でした。

えと、今回もいつものように返品可です。

コメントやご意見、苦情などありましたら、遠慮なくどうぞ。

ではヨウ様、素敵なシチュエーションリクエストありがとうございましたー(ぺこり)