カリファに淹れてもらった紅茶を飲んで、一時の休暇を楽しむ。

いつ長官に呼び出されてもおかしくないのだ。

これだけの贅沢は稀のこと。

しかし、ジャブラははっきりいって、自分の舌の上を通過していく紅茶の旨さなど、感じることはできなかった。

 

 

もてる男はつらいのです

 

 

「あら、ジャブラは私の方が好きよね?」

「カリファ…強要は卑怯じゃよ」

「強要?ふふ、面白いことをいうのね、カク」

「カリファは確かに色っぽいと思うがの、ジャブラはワシみたいな愛くるしいキュート系が好きなんじゃよな?」

 

バチバチバチバチ…ッ!!

 

鳴呼、二人の間に火花が見える…

ジャブラは遠い眼をしながら、二対の視線を避けるように紅茶を一口。

普段なら美味しいのだろうが、この状態では味も何もあったものではない。

 

実はこのやりとり…、そう馴染みのないものではないのだ。

 

 

ルッチが最年少でCP9に入ったことにばかりついつい目が行きがちなのだが。

その頃、年若い才能をさらに掘り出そうと、養成施設に行き来するパイプラインとしてジャブラが選ばれていた。

そこで上が目をつけたのが、まだ十代になりたての少女と少年。

いわずもがな、幼き日のカリファとカクである。

 

「私とカクとどっちが大切?」

「ワシとカリファ、どっちが大事じゃ?」

 

会いに行くたびに繰り返される言葉。

ジャブラは答えも、いつだって同じ。

 

「ギャハハ!どっちも同じだけ気に入ってるからなァ…」

 

「なら、好きな人とかいるんかの?」

「どんな人が好きなの?」

 

「そらァとにかく強ェやつだっての!だからさっさと強くなれよー」

 

何度も何度も繰り返されてきたやり取り。

聞いているかぎりは何とも微笑ましいエピソードであるのだが…。

 

 

「なにがキュートよ!!腹黒のくせに…」

「腹の黒さではカリファに負けると思うがのー」

「とにかく!アンタより私のほうがずっとずっとジャブラを好きなんだから、邪魔しないでっっ!!」

「ワシのほうがもっとずーっととてつもなくジャブラを好きなんじゃ!!」

 

 

それがどう間違ってこうなって閉まったのか…。

ジャブラは溜め息を吐きながら、ロビーからどうやって逃亡するかを考えていた。

 

すると…。

 

「あーらあら、白熱してるじゃない」

「うわっ!?た、大将!?」

 

ジャブラの座るソファの横に、大将青キジが座っていた。

 

「ワンちゃんもてるねー」

「揶揄うの止めてくれませんかねェ」

「んー?揶揄ってなんないって…ちょっと妬けるだけ」

 

そういって、ひょい、とジャブラを自分の膝の上へ乗せる。

いやはや見事なまでの手管である。

途端、今までの喧騒がぱたりと収まり、二人の攻撃の矛先は上司の方へ。

 

「……大将」

「あらあら、そんな顔してちゃ美人が台無しでしょうが」

「ジャブラ、大将の膝に乗ってちゃ迷惑じゃろ?」

「ん?大丈夫よ、俺全然平気…ってかむしろ歓迎」

「ここはロビーですから、そういった行為は謹んでいただけませんか?」

「んー…じゃ、ジャブラ連れてどっか行こうかなー」

「ジャブラは置いていってくれんかの」

 

バチバチバチバチ…ッ!

 

にこやかに。傍から見れば、とても和やかなように。

会話が繰り返されるなか、雷のような火花が散る。

こんな展開、予想もしていなかった。

カリファとカクだけであったなら、まだ何とかできたかもしれないのに。

 

 

「んー、でもジャブラは俺と居たいでしょ?」

「まさか、私と一緒にティーブレイクしたいよね?」

「ワシと一緒に休暇を楽しむんじゃよな?」

 

 

青キジの膝上に乗せられて、両腕でロックされたまま。

前からはにこにこ笑顔な年下の同僚がプレッシャーをかけてくる。

 

「あ…っと……その…」

「「「ん?」」」

「うぅ…」

 

もう涙目である。

どうしよう、どうやっても選ぶのなんて無理だ狼牙…

ジャブラの頭の中はもう真っ白なようだ。

尤も、ジャブラが涙目でぴるぴるしている図は、三人にとって萌え以外の何物でもなかったのだが。

 

「お…れ、は……っ!!」

 

 

 

バターン!!!

 

ジャブラが口を開いた途端、大きな音を立てて扉が開く。

 

「ジャブラー!!遊んでんな、仕事だ!!」

 

入ってきたのは、我らが愛すべき上官殿。

 

「え、何??何だよ、この空気」

「長官ーっ!!」

「え、あ、ジャブラ?」

 

不意を突いて、ジャブラは三人の呪縛から離れ、長官の傍に、剃を使って駆け寄る。

 

「任務だな、よし分かった!!で、何すれば…あぁ、この書類見ればいい訳だな!!よし、海列車ん中で読みゃァいいから、んじゃ、ちょっくら行ってくるわ!!」

 

にこにこと爽やかな笑顔でスパンダムの手にあった書類を奪うと、そのまま、同様に剃を使って海列車のホームへと向かう。

 

「お、おい…ジャブラ…??」

 

「長官…わざわざ邪魔しにいらっしゃったのですか」

「答える前に逃げられてしまったわい」

「ホント、今いいところだったのに」

 

「え゛…ちょ、ちょっと!お、俺!!何かしたか!?」

「「「………」」」

 

ただ無言で。

じりじりと長官に近づいていく三人。

そして…。

 

 

ぎゃぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁ…っ!!!

 

ジャブラがホームから乗り込もうとした瞬間。

司法の塔から断末魔の悲鳴が木霊した。

 

FIN

_ _ _ _ _ _ _ _ _ _

 

ルッチ「ふっ、そんなもの!俺を選ぶに決まっている」(胸張り)

ジャブラ「世界が俺とてめェの二人ぼっちであっても絶対ェ選ばねェと断言できるぜ」

ルッチ「な、何故だ!?これだけお買い得の“だーりん”はいないぞ?」(驚愕)

ジャブラ「てめェは一体どんだけ自己評価が高ェんだよ、馬鹿猫っ!!」(意義あり!と机ばんばーん!)

ルッチ「そ、そうか!これが巷で噂のツンデレ…」(電球、ぴかっ!)

ジャブラ「勝手に言ってろ…」(ルッチを置いてすたすた移動)

 

 

ジャブラ「しっかし、長官…無事なのか?」(滝汗)

 

 

カリファ「全く、あとちょっとで私を選んでくれたのに」(溜め息)

カク「いーや、あそこは間違いなくワシの名を呼ぶところじゃった」(机ばんばーん!)

青キジ「んー…やっぱ同僚より上司の方が頼れていいんじゃない?」(ふわぁぁ、と伸びを一つ)

 

スパンダム「すみません、すみません、すみません、すみ…」(虚ろな目でエンドレスに謝罪)

 

あぁ、今日もエニエス・ロビーは平和だなぁ…(にこにこ)

っていうか、この小説で一番つらいのは我らが長官だと思いまーす♪

 

 

という訳で、黒潮様のリクエスト『キジVSカクVSカリファでジャブラ争奪戦』でしたー。

本っっ当にお待たせいたしましたー。

えとえと、お待たせしている間に嵬様に改名なさったようで…本当にすみません(滝涙)

三つ巴小説めっちゃ楽しかったです。

セクシーなの、キュートなの、ワイルドなの、どれが好きなの?…みたいな(笑)

誰でオトすかをかなり悩みましたが…結局長官不幸オチにしちゃいました。

当初青キジがいいとこ持ってく予定だったのですが、それだと似たようなものいろいろ書いてますので…。

えとえと、コメント、ご意見などありましたら、お気軽にお寄せください。もちろん、毎度のごとく返品OK

それでは黒潮様、楽しいリクエスト本当にありがとうございました。(ぺこり)