「野良犬ではなく負け犬だったか…」

いつもの軽口、気にしてはいけないと自分に言い聞かせる。

それでも…いつもいつも貶されてばかりなのは正直悲しかった。

「うるせぇ!だったらいちいち話しかけてくんな、この馬鹿猫!」

この状態では、幾度身体を重ねても…惨めなだけだ。

 

 

実験台

 

 

ジャブラとルッチが喧嘩をした。

とはいえ、ジャブラが一方的に怒っているだけでルッチはどこ吹く風なのだが。

この一件でジャブラがルッチと口をきかなくなって3日。

衛兵たちは、ルッチの不機嫌なオーラに怯える毎日だった。

 

「どうしたらいいかしら?」

「何でワシに話を持ってくるんじゃ?」

「アラ、だってカク仲裁得意じゃない」

「…面倒じゃ」

「このままだともっと面倒よ?」

「………」

 

流石のカクも、カリファには頭が上がらないのだ。

そのカリファにこう言われては仕方ない。

「よろしく」と言って嫣然と微笑むカリファに見送られながら、渋々ジャブラの元へと向かった。

 

「で、何をスネとんじゃ?オマエさんは」

中庭でフテ寝を決め込んでいたジャブラに背後から声をかける。

ジャブラは煩わしげに振り向いた。

「スネてなんかねェよ!!」

「ルッチと一言も口きいてないんじゃろ?」

「……オマエらには関係ない…」

「大有りじゃ!あの険悪なルッチをどうにかしてほしいんじゃ!」

「そんなん俺のせいじゃねェ!」

「しかしの…」

「るせェ!口出しすんな、このキリン人間が!!」

「!」

「オマエなんかそこらで草でもくってりゃいいだろ、この草食動物がっっ!!」

「………」

「ふんっっ!」

 

怒りも露に怒りながらその場を去るジャブラ。

だから気付かなかったのだ、背後のカクがどのような顔そしていたのかを…。

 

「その台詞、よぉ覚えとれ……」

 

そう呟くカクの声は驚くほど低かった。

 

 

 

その日の夕食後、コーヒーを運んできたのはギャシーだった。

ジャブラはその姿に見惚れたまま。

まぁ、それも計算のうちなんじゃけどの…

横目でちろりと伺えば、ジャブラの機嫌は最高潮。

浮かれたまま、目の前のコーヒーを飲み干した。

……それを見終えると、カクはこれ以上ないほど愉しげに笑みを浮かる。

実験結果が楽しみじゃの

ふふっと笑いながら、カクもカップの中身を飲み干した。

 

 

……そろそろかの

「のう、ジャブラ」

「あ?何だよ??」

「昼間の話なんじゃが…」

「………」

「どうした?」

目が笑ってねェ…

「目が笑ってねェ…ってえ゛っ!?」

「ほえ?何を言うとるんじゃ?」

俺、何でこんなことまで喋ってんだァ!?

「俺、何でこんなことまで喋ってんだァ!?」

「どうしたんじゃ?ジャブラ??」

何で思ってること全部口から出てくんだよ!!

「何で思ってること全部口から出てくんだよ!!…って、またかァ!?」

 

自分が思っていることが全部口から出てきてしまう。

そんな馬鹿な話はない、とジャブラは派手に狼狽する。

そんな目の前の不幸な男を眺めて、カクは満足げに嗤った。

 

「成功じゃの♪」

「何がだよっっ!?」

「ん?ちょっと…オマエさんに実験台になってもらったんじゃ」

「はァ!?」

「さっきのコーヒーにはちょっとした薬を入れての☆」

「てめェ…一体俺に何の恨みが…」

「どうせワシは“キリン野郎”じゃからの〜」

「って逃亡しようとすんな!どうすりゃ直るんだよ!?」

「さぁて……“草食動物”のワシには分からんの〜」(剃!)

「あ!逃げんな!!」(負けじと剃!)

 

ジャブラとてスピードには自信があった。

こうなったら何がなんでも捕まえて対処法を吐かせてやる!

意気込んで、悠々と逃げ回るカクの後を追った。

と…。

 

「っ!?」

「うぉ…っ!?」

 

角を曲がる寸前、そこから現れた黒いものにブチ当たった。

それは人間で、更に言うなら今一番会いたくない人間。

 

「ルッチ…」

「丁度よかった…話がある」

「俺にはない」

「俺にはあるんだ」

「おい…っ!?」

 

そのままぐいぐいと引かれて、手近にある室内へと連れ込まれる。

 

 

「………」

「何だ、今日はおとなしいな?」

「………」

 

マズイ。すこぶるにマズイ。

このままだと、あの薬のせいでどんな台詞が飛び出すか分からない。

 

「いいかげん機嫌を直せ…」

「別に機嫌は悪くねェ!」

「……十分悪いだろう」

「悪くねェ!」

「………なら話を聞け!」

「〜〜っ!てめェなんかと話すことねェよ!」

「何だと?」

「てめェの顔なんて見たくねェんだよ!馬鹿猫!!」

「………」

 

明らかに、ルッチの顔に嫌悪の色が滲む。

だが、ジャブラとしても必死だった。

とにかく二人でいることが嫌で、顔を見ていたくなんかなかった。

自分だけ本音を晒すなど、死んでも御免だったから。

 

「そうか…わかった」

「!」

「所詮、貴様のような野良犬に聞く耳などないか」

「何だとォ!?」

「いいさ、俺だって貴様のバカ面など、見ていたくはないからな」

 

 

ミ テ イ タ ク ハ ナ イ

 

それは自分が言ったのと同じ台詞。

この程度の軽口、いつだってきいている。

なのに何だ、この重苦しい感情は……。

息が詰まってしまいそうなほど…苦しい。

心が…引き裂かれるかと思った。

 

 

ぽろ…

 

「な、何だよコレ!?」

「っ!?」

 

自分の目からぽろぽろと溢れ出す涙に、ジャブラは焦った。

だが、焦っているのはルッチも一緒。

あの程度のことで泣き出すなどありえないからだ。

 

「おい、ジャブラ!?」

「触んな、バカ!」

 

慌てて駆け寄るルッチを跳ね除け、ジャブラは目元を拭うのだけれど。

 

「何で…止まらねェんだよ!!」

「………」

「何で…俺がこんな泣く必要があんだよ!!」

「………」

「てめェも見てんな!見たくないんだ狼牙!さっさとどっか行けよォ!!」

 

自分を見下ろすルッチが哀れんでいるように感じて、さらに涙が止まりそうになかった。

これでは、あまりに自分が惨めすぎる。

 

「う゛〜…」

「ジャブラ…」

「こんなの…俺じゃねェもん」

「……悪かった」

「うるせェ!オマエ悪いと思ってねェだろ!!」

「そんなことは…」

「いつもそうだろ!!人のこと見下してばっかで…」

「別に見下しては…」

「どうせ俺はオマエほど強くねェよ、バカ!!悪かったな!」

「おい……ちょっと落ち着け…」

「何で俺ばっかこんな惨めな思いしなきゃなんねェんだよ!!」

「!」

「もう……いやだ…」

 

言いたくなかった。

こんなこと言えば、自分がより惨めになるのは分かりきっている。

なのに、言うまいと思っていたことばかりが口を突いて出てくる。

目が痛くなるほど泣けてくるのももっと嫌だった。

 

「何じゃ、ここにおったのか」

「!?」

「カク?」

 

その場にひょっこり現れたのは、この事態の元凶。

 

「おや、仲直りしたのかの?」

「………何の話だ?」

「ルッチから殺気が消えておるからの〜」

「………」

「って、ジャブラ?」

「……ゃだ…」

「オマエさん、どうし…」

「コレ、コレ、何とかしろよ!」

 

そう言って、喉を掻き切りそうな勢いで爪を立てている。

 

「ちょ…っジャブラっ!?」

「悪かったから!さっさとこの効果消してくれ!!」

「何の話だ?」

「分かったから落ち着かんかい!」

 

カクは慌てて懐から注射器を1本出すと、暴れるジャブラを抑えて首筋に打ち込んだ。

 

「あ゛ぅ゛…」

 

ジャブラは小さく呻くと、その場にばたりと倒れた。

 

「カク!!」

「……何じゃ?」

「貴様…ジャブラに何を」

「ん?中和剤じゃ」

「中和?」

「あんまり誰かさんが殺気立つんでの〜、みんな怯えてしまって」

「………」

「ジャブラに折れるよう言ったんじゃが…頑固での〜」

「………」

「ちょっと『本音を隠せなくする薬』を実験がてら使ってみたんじゃが」

「!」

「……効き過ぎたかの」

「カク!!」

「……ワシを怒るより自分を振り返ったらどうじゃ?」

「何!?」

「オマエさんの態度のせいでジャブラはストレスが溜まってたんじゃろぉな?」

「!!」

「あれほど溜め込む必要もないじゃろうに…」

「………」

「どうせオマエさんのことじゃ…自分の気持ちなど伝えておらんじゃろ?」

「………」

「臆病者」

「!貴様っ!!」

「さて、邪魔者は消えるかの…」

「おい、待て…っ!」

今日のところは実験結果だけで帰るが…次はどうしようかの…」

「!!」

 

ひらひらと手を振りながら、不穏な台詞を吐いて去っていくカク。

その背を見ながら、ルッチは改めて食えない男だと再認識した。

 

 

 

「う……」

「気付いたか?」

「な……ルッチ!?」

「しばらく気絶していたので、俺の部屋に運んだのだが…」

「!!」

「気分はどうだ?」

「……最低だっての!」

「………」

「さっきのはっ!その…気にすんなよ!!」

「……気にする」

「ば…っ!?アレはカクの薬のせいであって、俺の意思じゃねェ!!」

「……悪かった」

「だから止めろって!もう忘れろ!!」

「嫌だ」

 

背後から抱きつかれて、必死にもがくのだけれど、細い腕は外れそうにない。

 

「悪かった」

「………だから」

「言わずとも伝わると思ってた」

「あァ!?何がだよ?」

「………オマエが好きだ」

「なななななな!!!!!」

 

途端に耳まで真っ赤に染めるジャブラ。

その様を見てルッチは満足げに目を細める。

 

「何馬鹿なこと言い出してんだよ、アホ!」

「嫌か?」

「〜〜〜っ!その聞き方は…卑怯だろ」

「そうか?」

「そうだっ!!」

 

そんなことを言い合いながらも、心はいつもよりはるかに軽やか。

もちろん、この感情は恋でもなければ愛でもなかったけれど。

それでもこの瞬間、二人の距離は確実に縮まったのだ。

 

実験結果は…大成功。

 

FIN

_ _ _ _ _ _ _ _

 

カリファ「助かったわ、カク」(ルッチの殺気も治まったし)

カク「まぁ、実験ついでじゃ」(ジャブラも少しは懲りたじゃろうし?)

カリファ「で、その実験で仲直りできたのね?」(凄いわねぇ…)

カク「たぶんの」(今頃はイチャついてるじゃろ)

カリファ「へぇ…」(じゃ、安心ね)

カク「しかし、ジャブラの泣き顔は可愛かったの〜」(♪)

カリファ「え゛…」(まさか)

カク「またこっそり飲ませてみようかの…」(薬ちゃぽちゃぽ♪)

カリファ「……ほどほどに、ね」(ファイト、ジャブラ!!)

 

という訳で結城様リクの『ルチジャブ←カクの協力』でした。

え〜っと…すみません、あまりルチジャブじゃないですかね、コレ(滝汗)

黒カク大好きなので…出張りすぎました!

で、ボロ泣きしながら自分の内情を吐露するジャブラが書きたかったんで…こんな感じに。

何かコメント等ありましたら、気軽にどうぞ!……返品OK(笑

楽しめるリクエストありがとうございました(ペコリ)

長々お待たせしてすみません…リクに沿えてるといいんですが…(ガタブル)