消えない罪

 

 

彼のまぶたには深い傷跡がある。

それは、今もしっかりと刻まれたまま。

それを見る度に、私は思い出すのだ。

あぁ、これは消えない罪だと。

 

 

 

 

「カリファッッ!!」

「え…っ!?」

 

彼の声が聞こえたと思ったら、自分の方へ飛んでくる鋭利な銀。

当たる。そう、直感した。

スピードの領域を誇っていても、いやむしろそれを誇っているからこそ、分かった。

かわせない、と。

 

しかし、それは自分に当たることはなくて。

かわりにあったのは、誰かの懐に抱きしめられる温もり。

え、と顔を上げた瞬間…ぽたりと手に落ちた水滴。

紅い紅いそれは、まごうことなく体液で。

ジャブラの鮮血がぽたぽたと私の手を彩った。

 

「悪ィ、汚しちまったな」

 

そう言って、彼は身体を離すと刃物の持ち主をあっという間に絶命させた。

 

最低なのは、その後。

私はなじった。

どうして庇ったのか、と。

女だからといって馬鹿にしているのか、と。

ただひたすらに怒号を浴びせた。

片目を包帯で巻かれた状態のあの人に。

だって、嫌だった。ジャブラが自分のせいで傷ついたことが。

それが何を意味しているのかなんて考えること余裕は当時の私になくて。

ただ、ただ自分の無力さと無力な私を庇った男に腹が立った。

 

言いすぎだ、とみんなに言われた。

でも、それが目的。だって私が責められないのってオカシイもの。

だけど…。

 

「俺が悪かったんだ…ごめんな、カリファ」

 

寂しげに笑う顔。私の頭を撫でる手。痛々しげな包帯。

悲しくなった。自分がどれだけ小さいか思い知らされた。

 

本当はただ一言だけ、好きな人には怪我して欲しくないと言えたらよかったのだ。

 

 

 

「んァ〜…っ!」

「…お目覚めかしら」

「っ!!」

 

大きく伸びをしたかと思うと、私の声に反応して飛び起きる貴方。

そんなに慌てなくてもいいでしょう?

 

「ふふ、おはようジャブラ」

 

小さく笑って、私はジャブラの傷跡にそっと口付ける。

 

「その傷好きだな、カリファ」

「……ま、否定はしないわ」

「いっけどな、俺がオマエを守った証だし」

「……誰が守れって言ったのよ、無礼者」

「はいはい、怒んなって…美人が台無しだぜ?」

 

ここで“守ってくれてありがとう”なんて言えるような素直な女じゃないの、私。

それに、そんな一言であっさりかわされても…嫌なのよね。

 

「でも…コレは確かにお気に入りだわ…貴方が私のモノだという証でしょ?」

「!!」

 

するっと傷跡を撫でて微笑みながら、そっとキスをすると真っ赤になるジャブラ。

その素直な反応は、自分にはできないもの。

だって、私、所有されるなんてまっぴらだもの。

 

ごめんね、好きだといえなくて。

ごめんね、素直じゃない女で。

 

言葉にできない思いを込めながら、私はもう一度傷跡にキスを落とした。

私の消えない罪の証に。

数えきれない罪の証に。

 

FIN

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カリジャブです。かなりしっとり系で繊細なタッチが出るよう頑張ってみたり(え?どこが?)

カリファを女らしく仕上げました。女王様なだけじゃなくて時には少女の面も合わせ持って欲しい!!

でも素直じゃなくて、ジャブラが折れてくれる。そんな関係が理想。

ジャブラの傷跡についてはいろいろ捏造したいです。

だからその都度傷の原因が違ったりしますがご容赦を。