自殺
「あーあ、やりやがった」
血溜まりの浴室に、事切れた人間が一体。
いや、もはや死体と呼ぶべきものなのだが。
その相手は、自分が殺すべきはずの相手。
まぁ、手を汚す必要がなくなったのはラッキーなのだけれど。
ざああああああああぁぁぁぁぁぁ…
止まらないシャワーの音。
それに混じって流れる、紅い体液。
手首の痕、握り締めた剃刀。
誰がどう見たって自殺の現場だ。
その顔は、苦悶の表情。
手首の痕から察するに、一度では死ねずに何度も刃物を押し当てたのだろう。
自殺の方が、よほど勇気がいるだろうに。
「んな真似せんでも、殺してやったものを」
自分なら、もっとあっさり殺してやった。
怖いと思う間もなく。苦しいと思う間もなく。
ただ、生と死を結び付けている糸を切るだけの作業なのだから。
自分で自分の生を断ち切るとは、どのような気持ちになるのか。
ジャブラにはそれがわからない。
数多の命を奪っても、分かるはずのないこと。
ただ、それがもの凄い絶望に満ちたことだというのは、目の前の死体の顔から分かった。
だから、ちょっとだけ同情したくなる。
「よよい、ジャブラぁ!何してるんだぁっ!!」
気付いたのは、クマドリの声で。
自分の頭にあったのは、自分の指先。銃の形をしたままの。
もう少し遅かったら、このまま頭ブチ抜いてたかもしれねェ。
そう…俺はとっくにエニエス・ロビーに戻って来てた。
「よよいっ!一体どぉしたんだぁ…」
「……いや、ちょっと自殺の気分でも味わおうかと」
「何てェことォ言うんだァァ…」
「…冗談に決まってんだ狼牙」
苦笑しながら立ちあがる俺。
クマドリが心配そうに見ているのが分かるから、軽口を返す。
こんなことぐらい鬱になってちゃ、俺らしくねーっての。
ただちょっと、気になったのだ。
あのおびただしい量の血の海を見て、自分がそうなったらどんな気分かと。
「ジャブラぁ…よよぉいァ!!」
「…なんだよ」
「ジャブラがいなくなったらァ、オイラぁ悲しいィぞォ」
ストレート過ぎて、かえって効いた。
「ばーか、自分の心配してろ!俺よか弱いくせによっ!」
「よよい!いつものジャブラだァ」
わざと口汚く返すと、笑うクマドリ。
こういう時、たまに思う。コイツのが断然大人だって思うことが。
いつも自害の真似事はするけど、コイツはしっかり決意をしている。
いつだって揺らがない、芯を持った生き方を。
そう、自棄になったって仕方ないし、この生き方を選んだのは自分。
もう、この道しか俺たちにはないから。
どれだけの血の海を歩いても。
どれだけの屍を踏み越えても。
迷ってはいけないのだと…そう、思った。
FIN
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クマジャブってかクマ&ジャブってか…、そんな感じ。
なんかクマドリはふざけてるようでいて、しっかり芯があるんです。
だからこそ、こーゆー風に揺らいだときにあのストレートさが効くんじゃないかな。
この2人はお互い結構馬が合うし、フリーデーはきっとお酒とか呑んでると思う。
…その勢いで一発ヤっちゃってたりすればいいっ!まだ書く勇気はないけどね。
次に書くときはもうちょっといちゃいちゃさせてもいいかもしんない。