鬱
あァ、憂鬱だ。
この夜のない昼島にだって、雨ぐらいは降ることがある。
しとしとしと。
しとしとしと。
あァ、どこかで見たことがあるような。
しとしとしと。
しとしとしと。
…忌々しい。見たくもないのに、次から次へと。
窓を伝っては消えるを繰り返す雨粒は、否応なしに、何かを連想させる。
そうだ。
いつだって、誰かの生を欠き切るときにコレを目にする。
昨日任務にいったときにも目にした、ソレ。
死にたくないという恐怖の象徴。
俺たちを前にした、畏怖の象徴。
だからといって、そんな涙をみたぐらいで絆されるほどではないけれども。
「………」
ふと、自分が手を握り締めていたことに気がついて、その手を開く。
鳴呼、俺のこの手は深紅に染まりきっている。
今更、ふと思う。
無論、今まさに誰かを消したわけではないのだから、血の跡なんて残りようもないのだが。
それでも、自分には分かる。
その手がどれだけの血を浴びたか。
誰を殺したかなんて、多すぎていちいち覚えていられないのに。
この手には、確かな記憶として残っているのだ。
いつだって、生々しいまでに。
自分には……自分たちには、分かる。
そんな悲しい記憶を理解できるものは自分と同じ生業に生きる者。
自分と同じ立場にあり、いつだって弱みを見せることなどできない者。
それはそれは、悲しい連帯感。
「何だって今日はこんな天気なんだ…」
しとしとと雨の降り続く外を見つめながら、彼にしては珍しい台詞を吐く。
すると、平和の象徴である彼の小さな相棒が、ぱたりと右肩にとまる。
それで現実に引き戻されたのか、らしくない、と苦笑を漏らす。
そうして、相棒をそっと撫でると彼は安心したかのように喉を鳴らした。
それでも、前に進むしか方法はない。
だって、この背に背負うものは、紛れもない『正義』。
正義を守り、自らを高めること。
それ以外見てはいけない。
それ以外感じてはいけない。
あァ、憂鬱だ。
いっそ前しか見てはいけないのなら、雨なんて降らなければいいのに。
FIN
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さて、これは誰のことでしょうか。
正解は…分かるよね、多分。猫って雨の日不調になるもんだし。
最後まで誰でも連想可能なように打ったんですが、やっぱりルッチ兄さんがいいかと思って。
こっちのお題はノらないとなかなか進まないんですよねー。
でも、結構格好よく仕上がったんじゃないかな。
鬱というタイトルだけあって、鬱々と壊れるジャブラでもよかったんですが…それだと下のパニックと被りそうなので(苦笑)←どっちもどっち。