こんなところに餓鬼がいる。

ここに似つかわしくない、苦労知らずのその容姿。

まぁ、俺にはまったく縁のない人間だろうケド。

 

 

出会うべくして

 

 

ジャブラは幼い時分より、訓練を積んできた。

何事にも心を揺らさず、冷徹に人を殺す。

だって、いつだってそうなのだ。それこそが、己に課せられた「正義」。

道具も使わないから、痕跡も残らない。

そう、彼は存在しないはずの正義なのだ。

 

退屈だ

…心底そう思った。

ここで訓練している面々の中でも秀でている存在、それが自分だった。

なんでも「六式」とかいう体術を全て会得しなければならないらしい。

できなければ…存在価値がなくなるのだ。

 

ま、俺ァその心配ねぇケドよ

 

それはそうだろう。

もうすでに、半分の体術を会得しており、周りはこぞって自分を恐れる。

CP9入りは確定だろうという話だった。

 

 

「ジャブラ」

「ん??」

見れば、この訓練場のトップが、なにやら大柄の人物を連れ立っている。

「こちらは、政府のスパンダイン長官殿だ」

「………どうも」

「ふむ…この子供が?」

「はい。まだ12歳という若さゆえここにおりますが、この若さで三式会得済みで…」

「能書きはいい。見せろ」

「ジャブラ…お前の技を披露してくれ」

面倒だが、相手は政府高官(でなきゃ、こんなサービス必要ねぇ)だ。

ま、見せたって減るもんじゃねェか

 

「………嵐脚っっっ!!!」

 

スザァ…ッ

風が薙いだ。

蹴りの勢いそのままに、衝撃が動く。

見ると、そこから10メートルは離れた位置にあるだろう、人型の模型から首が落ちた。

…コトリと静かな音をたてて。

 

「………凄いな」

長官殿は静かにそう言った。

しかし、それより気になったのはその横の餓鬼だ。

ふわふわ揺れる鮮やかな紫の髪が印象的な。

「…っっっ!!」

惚けたように息を呑んでいる姿は何だか新鮮だった。

しかし、何だってこんなところに餓鬼が居るんだ?

「お気に召しましたか?」

「ああ。…っとこんな時間か。そろそろ会議に行かねばな」

「!お引止めして申し訳ありませんっっ!」

「いや、構わんよ…スパンダム!」

「!?」

名前を呼ばれて、その子供は長官の方を向いた。

「行くぞ」

「え…あ……っと」

困惑したように視線を彷徨わせ、縋るような眼で俺を見る。

…どうしろってんだよ、オイ

「もう少し…見てたら駄目…??」

「………」

長官はしばし迷った挙句、ぐるりとこちらを向いた。

「ジャブラ…とか言ったね?」

「…何っすか」

「いや、コレが君を気に入ったようでね。もう少しここにいさせても?」

…マジかよ、面倒だな

「いや、もう長官殿のご子息なら大歓迎です!な、ジャブラ」

…俺の意思は無視かい!

これだから高官ってのはヤなんだよ!!

「別に…気にしませんよ」

「そうか、なら後で迎えをやる。…邪魔することのないように」

「はい」

そう言って、長官は姿を消した。

 

 

「んじゃ俺、訓練に戻りますよ」

「あ…」

「まぁ、お前にとっちゃ訓練なんてつまらんだろ」

「いえ、そんなことは…(…あるケドよ)」

「坊ちゃんのご希望だ、お相手してさしあげろ」

「…組み手の?」

「馬鹿者っ!お話相手だ!!」

「………」

げっ、子守かよ…

そんなら訓練のがずっとマシ…

ちらりと坊ちゃんとやらを見ると、嬉しそうにこちらを見ているのが分かる。

…今日は厄日だ…

「とにかく、頼んだぞ」

そう言って、奴も姿を消した。

 

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…だぁっ!!アンタの希望だろうがっっ!!!何でなんにも喋んねェんだよ!!」

「…アンタじゃない」

「?」

「スパンダムだ」

「……じゃ、そのスパンダムさんが、オレ風情に何の御用で?」

「……さっきの…もう一回見たい。」

「『嵐脚』が?」

コクリ

ふてぶてしさと裏腹に、素直に頷くところがまだ子供らしい。

「……了解、よく見てろよ」

頭を使うより身体を使うほうがずっと性に合う。

だからオレは、ワガママ坊ちゃんのリクエストに答えるべく、構えを取った。

 

 

 

「…ジャブラ…って……呼んでいいか?」

一通りリクエストに答えた後、唐突にこう言われた。

「ご自由に」

「その…毎日あんな凄いの練習すんのか?」

「普通だぜ」

「そう…なのか…」

「ああ…」

「あ…のさっっ」

「ん?」

「どーやったら、ジャブラを嫁に出来んだ!!!?」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁああっっ!!????」

タメにタメて吐いた台詞がソレかよっ!?

「ボーヤ、突如何言い出してんだ?」

「むっ!オレ、ジャブラと二つしか変わらねぇもんっっ!!」

「……意外」

「嫌か?」

「ってか、俺ァ男なんスけど」

「だから?」

誰か、このヒヨコ頭の坊やに常識を教えてやってくれ。

「……何でまた」

「だって、初めて技見たときから、凄く綺麗だって思ったんだっっ!!

ずっと一緒にいたいって!!!!」

「………」

ふざけるなと怒鳴ることは簡単だ。だが、長官の子息に対し、暴挙には出られないだろう。

「…分かった」

「えっ♪」

「アンタ……スパンダムさんが大人になっても、まだ俺を好きだったら、考えてやるよ」

どうせ、こんな餓鬼の頃の記憶なんて覚えてるはずがない。

「ホントか!?いつまでだ??」

「え…と…20歳越えたら」

少なくとも、俺はサイファーポールに入っちまってる。

もう会うことなんてねェさ。

「わかった!じゃ、約束な」

嬉しそうに小指を出す子供に苦笑しながら、生まれて初めての『指きり』をした。

 

 

 

 

 

 

 

「さてっと、んじゃ行きますかね」

サイファーポールの中でも、俺たち9番目の正義を統率する男。

その「長官」に顔合わせに行くようにとの伝達が入った。

面倒だとは思うものの、どんな男か興味がある。

 

コンコン…

「失礼します」

豪奢な部屋に佇むのは、一匹の象と一人の男。

「はじめまして、六式使いのジャブラです」

す…っと自然に手を出すと、相手はその手を握る…ことはしなかった。

代わりに、出した手の小指に自分のソレを絡める。

「?」

「俺は長官のスパンダムだ、ハジメマシテ

見ると、ソコには見覚えのある人物。

その名前と、ふわりと風に揺れる紫の髪、そしてこの行動。

そう、俺の目の前にいたのは、あの時にあった、もう会うはずのない人物だった。

 

 

 

 

To be continued


ってな訳で、捏造スパジャブ始動!
せいぜい足掻いてくださいね、ジャブラさん(その方が楽しいから♪)


ルッチ「俺はこのシリーズは休憩か」(ちょっとがっかり)

ジャブラ「そんなに嫌なら、俺と変われ!!」

スパンダム「やだ!俺、ジャブラとじゃなきゃヤだぞ!!」(机バンバンと抗議)

カリファ「まぁ、ルッチが相手じゃ、イジめられちゃうものね」(手のひらに顎乗せで)

カク「まぁまぁ、長官のお手並み拝見といこうかの〜」(ワクワク)



ジャブラ「お手並みなんぞ、拝見すんな!!」(両手で叩いて机粉砕)