何日経っても、何も言われなくて。

そのことばっか心配してる自分が馬鹿みたいだ。

あの人も大人になったから、おかしいってことに気付いたんだろうし。

 

 

逃げ場なし

 

 

「失礼します」

「おう」

衝撃の再会から早4日が過ぎた。

「これ、報告書なんで」

「ん、サンキュ…。じゃ、ついでにコレ持ってってくれ」

「へいへい、了解」

だけど、あの時の話に触れることはない。

極めてスムーズな業務。

「うをぁちぃいいっ!、こんなコーヒー…っ!!!」

…前言撤回。

毎回毎回コーヒーを零すとこは、全くスムーズじゃねーわな。

 

だが…

「あ…っと、ジャブラ?」

「何スか?」

時折、こうして何か言いたげに引きとめられることがある。

「いや…その…」

「……何か?」

「〜〜〜っ!何でもねぇよ!!」

結局、その先まで語られることはなかったけども。

 

 

 

 

 

「アラ、ジャブラじゃない」

「何だ、カリファか」

どことなく、この女は苦手だ。何というか…隙を見せてはならない気が…。

魔女みたく感じるんだよな

これが、正直な感想。

「何だとは失礼ねぇ、ジャブラのくせに」

「…どっちが失礼なんだよ」

「それより、長官の話聞いた?」

「は?」

「給仕の女の子、フッたらしいわよ」

「え??」

初耳だぞ、ソレ

「ま、ま、ま、ま、まさか…」

「安心して、ギャシーじゃないから」

「そうか…って、テメエ何でそれ知って…」

「フクロウが言いふらしてたわよ、熱烈片思いって」

「あんの馬鹿…っっ」

「栗色の髪の、給仕のアイドル相手になかなかのものよ」

「へ〜」

「何でも『オマエと寝てもいいけど、好きにはなんねぇぞ』ですって」

「うおぁ…っ」

トリ頭だとばっかり思ってたのに、言う事凄ぇな…

「でもって『もう、20年以上も好きな奴がいるんだ』とか」

「………へぇι」

………もしや

「どんな人かって食い下がったら『黒髪で長髪の強い美人』って、きっぱり言ったみたい」
「………そりゃ凄いな」

「でも、長官が片思いする人って誰かしら?

あの人の立場なら、お金も色も思うままでしょうに」

「おま…っ女のくせに、色とか言うなよ」

「あら、男女差別?」

「……だから、そうじゃなくて…」

「ふふ、冗談よ」

じゃあ、報告書届けるところだから…と、優雅に踵を返す後姿を呆然と見送った。

やっぱ、女って生き物は怖え…

 

 

 

「なぁ、ジャブラ」

「あァ?」

今日は今日でデスクワークってやつがあった。

ホントは頭より身体を使って気分転換したいところだけれども。

こまめにやっとかねェと、溜まって困るのは目に見えている。

だが、何で長官の文まで手伝わないといけないのか…。

「…機嫌悪ぃな…」

「他人の仕事手伝うのに機嫌のいい馬鹿がドコにいます?」

「……ま、そりゃそうだ」

…分かってんなら言わなきゃいいのに。

俺はさらに気分が急降下していく。

「ジャブラ」

「あァ!?」

今度は一体何なんだよ!!

「オマエ…給仕の女と付き合ってんのか?」

「は???」

唐突に何の話だ?

「ギャサリンとか言ったか?」

「なななな、何で長官がギャシーのこと知ってんだよ!!」

「…フクロウに聞いた」

………あんの野郎…絶対シメる!!

「で、どうなんだ?」

「どうって…」

「俺より…好きか?」

「は?」

何でソコに長官が出てくるんだ??

だけど、長官の目は本気そのもので…。

それは、あの衝撃的な再会の日の表情に似ている。

「そりゃ…ギャシーのことは憧れだからよぉ…」

「………」

「大体、男の長官と比べるのおかしいでしょうが…」

 

だん…っ!

急に後頭部に衝撃が走り、俺は長官に脚払いをかけられたのだと気付く。

その時には、長官が自分の身体の上に馬乗りになっていた。

 

「ふざけるなよ…」

「何がですか」

「俺はっ……俺にはっ!!あの時の『約束』が全てだったんだ!!!」

「………あんなもの…本気にしたんですか?」

「今でも本気だ」

「男の俺に…正気じゃねェよ…」

「…そうやって…逃げる気だったのか」

「…………もちろん」

「逃がさねぇ」

するりと首の長官の両手が絡みつく。

非力なくせに、俺を殺そうとか思ってんのか?

「……出来るんで?アンタに…」

人を殺したこともないくせに。

「………」

「………」

無言のまま見つめあうだけの時間が流れる。

 

「止めた」

 

沈黙を破ったのは、長官のその一言。

ホラ、やっぱり。殺しなんて出来るはずがない。

 

「もっと効果的なことの方がいいからな」

「は?」

「今日から…オマエは俺のモンだ」

「………アンタ、人の話聞いて…」

「あぁ、そうやった拒絶してもいい。ギャシーが大事じゃねぇならな」

「なっ!!!」

「あの女の首は、オマエの返事一つだ」

「〜〜っ!」

「ここをクビにしてもいいし、なんなら衛兵どもにくれてやってもいいな」

「……………最低ですね」

俺は、長官を睨んだまま言い分を呑んだ。

「純真な俺を騙したテメェに言う権利はないだろう?」

満足そうに俺の頬を撫で、笑う長官。

 

 

「逃がさねぇよ…ジャブラ」

 

その台詞は、俺にとっての檻そのもの。

そう、今日のこの瞬間から…俺は長官の所有物だ。

 

 

もう、どこにも、逃げ場はない。

 

To be continued

 


はい、久々の子供ダーリンです。
道力9のヘタレ白パンダの分際で、狼を恐喝してますね〜★さっすが長官!!
※この時の長官はまだギャシーのことは名前しか知りません。

 

カク「おお!今日の長官は強気じゃの〜」(珍しい)

カリファ「あらホント、明日、雨?」(お洗濯できないじゃないの)

ルッチ「さっそくジャブラを所有物扱いとは…」(悔しいのでハンカチ噛み噛み)

ジャブラ「俺はモノじゃねェ!!」(机をダンダン叩いて異議ありぃっ!)

スパンダム「もう、ジャブラは俺のだかんな!!」(ぎゅうっとジャブラ抱きしめ)

ジャブラ「ちょ…っ!ドコ抱きついてんですか!!」(真っ赤になって焦り)

 

カク「本当に…羨ましいのぉ」(ニコリと殺意撒き散らし)

ルッチ「アレ…消してもいいか?」(けっこう本気)