吐き出すと、紫煙が上へと上がる。

別に美味いとか不味いとかじゃないんだ。

ただ…何となく口寂しくて。

 

 

タバコ

 

 

窓の外から溢れる光があまりに気持ちよかったから、誘われるように外へ出た。
庭の木陰で木漏れ日を感じながらごろりと寝転ぶのは気分がいい。

何より、昨夜の仕事の疲れが癒される。

 

『正義』のための人殺しなんて、矛盾してる。

けど、その矛盾の中でしか生きることができないのも事実。

「くだらねぇ」

こんな感傷なんざ、とうの昔に捨てたと思っていたはずなのに。

 

 

胸元を探ると、そこには目的のものがあった。

とりあえず、わすれちまおうと、ジャブラはタバコに火を付けた。

 

深く吸い込むと、肺の奥まで煙がいきわたるような感覚。

別に好きでも嫌いでもない。

ただ現実から目を逸らすのを少しだけ手伝ってくれるアイテム。

 

ただ、それだけ。

 

あぁ、でも。

吐き出される煙が上へと昇っていく様は好きかもしれねェ

 

 

「なぁ、それ」

後ろから聞き覚えのある声が聞こえる。
見ると、長官も外に出てきていた。

それ、と指を指されたのはジャブラが口に銜えていたタバコ。

珍しい、長官がこんなとこ来るなんざ

 

「珍しいですね、長官が部屋から出るの」

「……ジャブラが寝てるのが見えたんだよ!」

「へぇ………で?」

「仕事サボるなって言いにきたんだっっ!」

「…任務完了して、報告書持ってったでしょうに」

「〜〜〜っ!」

何も言えなくなったのか、長官は怒っているような表情をしていた。

俺…何かしたか?

「だって…顔見せに来なかったじゃねぇか」

あぁ、そういやネロが一緒に出しに行ったんだっけ、報告書。

「…でスネてらっしゃるんで?」

「………悪いか」

本当に、子供みてェな顔して膨れているのをみると、笑える。

「へいへい、すみません、すみません」

「……もういい」

それより、ともう一度長官がタバコを指差す。

 

「これがどうか?」

「いや、吸ってるの、初めて見たからよ」

「ま…たまには……ね」

「…美味いのか?」

「そうだな…」

 

美味いのかと聞かれると、実際に美味いわけではない。

体にとって害をなす物だということも、十分に理解している。

だが、それでも…いつの間にか欲しいと思ってしまう物なのだ。

 

「俺にとっては、美味い…かねェ」

「ふぅん?」

興味があるのかないのか、わからないような返事。

最も、長官が興味のないものに関心を示すとは思えないのだけれど。

 

「じゃ、吸ってみます?」

安物だけど、と一言添えて、ジャブラの方からタバコの箱を差し出した。

長官には似合わないような気もしたけど。

「………コレでいい」

差し出された箱には手を出さずに、スパンダムはジャブラの銜えているタバコを奪った。

 

 

「長官…」

「いいだろ、コレがいいんだっっ!」

 

年齢に反した子供じみた態度で、スパンダムは聞きとしてタバコを銜えた。

そして…

 

「っ、げほっごほがほっっ……っく、何だこれ……

 

 

涙目になりながら咳をする様子に、ジャブラはお約束すぎて苦笑を浮かべた。

 

「くく……大丈夫ですか?」
「っくっそぉ……こんな……っ!!」

こんなタバコ、と腕を振り上げて捨ててしまおうとする。

たぶん捨てられるんだろうなと、またも苦笑を浮かべて2本目を銜えようとするジャブラ。

しかし…

 

「………」

スパンダムは思い直ったようにしてタバコをじっと凝視し、また口に銜えた。

 

「長官??」

「げほ…っ…ごっっほぉっっ!!」

 

やはり、同じ結末。

それなのに、スパンダムはタバコを手放そうとしない。

 

「ちょ…もう止めろって」

ジャブラはあわてて長官からタバコを取り上げた。

「な…返せよ!!」

「って、これ元々俺のでしょうが。そんなムキになって吸わなくても…」

「だって、ジャブラのだろうがっ!!」

「!?」

 

これには本当に驚いた。

あれだけ咳き込んでいても消すことなく吸い続けていた理由。

それが自分の吸っていたものだからなんて。

 

 

「これで、間接キスだろ!!」

 

嬉しげに笑うスパンダムを見て、ジャブラはそのままタバコを消してしまう。

 

「??ジャブラ?」

「そんなもんに拘んなくてもいいでしょうに」

「そんなもんってオマエ…」

「だってよ…」

 

こうすりゃいいんじゃねェ?と、ジャブラは自分からスパンダムの唇に自分のソレを重ねた。

 

 

「!?」

「こうすりゃタバコも美味いだろ?」

 

 

ジャブラはニヤリと笑って見せた。

あんなに苦労してタバコに挑戦しなくても、直接すればいいんだからと。

 

「!!!!!」

「そんな驚くなよ、いつも長官からするくせに…ガキだな」
「ガキ言うな!」

悔しげに地団太を踏む様子は、噴出しそうになるほど。

「じゃ、アンタしたくないんだな」

 

笑いをこらえてそう言うと、そんなわけないと答えが返ってくる。

そのまま飛びつかれて、二人して芝生の上に転んだまま、何度もキスをされた。

 

どうせ口寂しいのなら、こっちのが数倍いい。

嫌なことを忘れて、幸せな気分になれるおまけつき。

こんなことを考えるなんて自分らしくないと笑えてしまうけれど。

 

「ジャブラ?」

「ん?あぁ…何でもねェよ」

 

 

幸せになれる、なんて言ったら、スパンダムはきっと調子に乗るだろうから教える気はない。

でも、取り合えず、今はこの気分を味わっていたいから。

 

ジャブラはもういちど自分から口付けた。

タバコの香りのする唇を、そっと。

 

 

 

FIN

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Childish darling(子供じみたダーリン)シリーズ

ちょっと外伝。

ってか、まだ本編でくっついてないのにね(苦笑)

 

さてさて男前のジャブラさんと断然ヘタレな白パンダ。

黒パンダも大好きですが、こーゆーのも美味しい。

男前なジャブラさんは長官のおねだりに弱いです。

…ねだられると「しかたねぇなぁ」とかって。

 

ををっっ!…ヘタレって以外にお得かもしんない!!!

 

スパンダム「だ・か・ら!俺はヘタレじゃねぇ!!」(机バンバン異議あり!)

ジャブラ「………」(コメントに困っている)

カリファ「ど〜考えても、長官はヘタレだと思うケド」(髪かき揚げモーション)

カク「ヘタレは長官の代名詞じゃからの〜」(腕組みでうなずき)