「や、やっちまったもんは仕方ねェでしょう…」

「…一理あるな」

「上官の奔放さは謝ります、大将赤イヌ」

「………」

 

 

 

惹かれてやまない

 

 

気に入らない。

それだけの強さを必要とする任務にありながら怯えた態度を滲ませることが。

気に入らない。

自分の価値に気付かずに諦めにも似た色をその眼に湛えることが。

気に入らない。

この自分がこんなにも気をとられること自体。

 

気に入らない。

この男の全てが。

 

見ているだけで苛立ちが募ること自体、気に入らなくて仕方がない。

 

 

最初に諜報部員のことを知ったときには、もう彼はその任に就いていた。

それでも、年若い彼のような才能溢れる人材は、正義のために使われるべきだと思った。

 

…その頃はまだ、口をきくことすらなかったけれど。

 

 

 

それから幾月経っただろうか。

再びあったときには、今の彼に成り果てていた。

自信があるように見せて、不遜な態度のままで。

…それでいながらどこかに不安を滲ませている、その姿。

 

原因は誰だって分かる。豹の力を持つ、あの天才ボーヤだってことは。

 

何といっても、彼らの力については注目の的だった。

中には、誰が頂点に立つべきかの賭け事さえも。

もっとも、潔白な正義に一直線の赤イヌに参加を促す者などいるはずもなかったし、正義のための力にしか拘らない赤イヌにとっては、そんなことどうでもよかったのだが。

 

だからといって、せっかくの戦力にショボくれてもらっては困るのだ。

しかも、外には不遜なままで自分が弱っていることなど億尾にも出さずに鬱々と溜め込んでいるのが尚腹立たしい。

そんな下らないことに拘る暇があるのなら、倍速で仕事でも片付ければいい。

 

…この世から排除すべき“悪”は後を絶たないのだから。

 

 

だからいつも思った。

コイツが自分の直属なら、即行クビにしてやりたいと。

苛立った。

自分の目の前から消してしまいたいと思うほどに。

 

 

“アンタさァ……何でアイツにそんな苛立ってんのよ”

“当然だ、弱きは必要ない”

“あのね…だから俺が引き受けたデショ?何でそんな気にすんの?”

“…どういう意味だ?”

“だって、今までにアンタが切り捨ててきたときも平然としてたでしょうが”

 

いつだったかの、青キジとの会話。

この会話で、さらに苛立ちが増した。

この自分が、感情を露にしているだと?…そんなもの認められるか。

 

だから何度も思った。

青キジのような風来坊な男に言われたことなど気にするな、と。

何度となく自分に言い聞かせた。

青キジとは話が噛み合わないだけなのだ、と。

 

 

だが。

だがそれでは……どう説明をつけたら道理が通るのか。

 

この、今、自分の中にある感情に。

 

 

 

「貴様をぐちゃぐちゃにしたら、アイツはどんな顔をするんだろうな」

 

そう、自分がこの男に抱く苛立ちは、きっとあの大将に似つかわしくない男と繋がりが深いからなのだと。

そう考えれば、全てが一つの線になる。

そう考える以外に、理由が思いつかない。

 

これこそが……真理。

 

 

やっと自分の中に燻る真理に辿りついたと…そう、思った。

だが。

 

「なら、やってみますか……そー簡単にゃ壊れねェとは思いますが、ね」

 

聞こえたのは、不遜な台詞。

ふと自分が捕らえた男を見れば、その眼差しは何よりも挑戦的。

 

 

射抜かれた。

そう、思った。

構築した真理が、打ち砕かれる音が聞こえる。

同時に。

これ以上踏み込んではいけないと、警鐘の音が。

 

 

それなのに。

頭ではわかっているのに。

 

 

「………おもしろい」

 

口を突いて出た台詞は自分の意に反して。

そのままジャブラを床へと投げ飛ばした。

 

 

不意のことに受身が取れず、肩から打ちつけられるジャブラ。

その姿は、どうしようもなく赤イヌの中の何かを呼び覚ました。

 

そう、どうあっても抗えない。

理性とか、理屈とかそんなもの全てが無意味。

 

ただ………惹かれてやまない。

 

 

 

それならば、いっそ…。

 

「さぁ………どうしてやろうか?」

 

赤イヌの目に残虐な光が灯る。

その頭には青キジのことなど微塵もないことに、彼はまだ気付かない。

ただ、本能の誘うままに動いているだけだった。

ただ、感情の赴くままに動いているだけだった。

 

そう。

抗えないのなら、いっそ自分で乗ってしまえばいい。

行き着く果てなど考えずに。

 

FIN

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一方、こちらは北に逃亡してペンギンと戯れる青キジ氏(笑)

青キジ「アイツも大概素直じゃないからねェ…」(溜め息)

ペンギン「きゅ?」(小首かしげ)

青キジ「ん?俺の同僚なんだけどねー」(ペンギン餌付け)

ペンギン「きゅ、きゅーっ♪」(餌ぱくぱく)

じりじりじり…っ!←子電伝虫

青キジ「アラ…もしもし?」

副官「何、北極で遊んでいらっしゃるんですか」(溜め息)

青キジ「あらあら待ちなさいな………………エスパー?」(小首かしげ)

副官「ペンギンと戯れてないで仕事してください」(無視)

青キジ「いや、だからエスパー??」(さらに小首かしげ)

副官「そろそろ追っ手が行くと思いますので」(さらに無視)

青キジ「……あ、そう」

副官「…で、大将赤イヌより伝言が」

青キジ「ん?」(あら珍しい)

副官「しばらく部下を借りる、とのことで」

青キジ「………へ〜、以外とすんなりいったじゃない」(ぼそりと呟き)

副官「え?」

青キジ「いーえ、了解了解、もうじき戻るわ」(頭ぽりぽり)

副官「お願いします」(電伝虫をがちゃりと切る)

 

青キジ「ん〜、これで種まき終了っと。

さてさて、どーなるのかしらねぇ…」

 

おやおや?何やら青キジさんが策士なムードですね。

こんばんは。昨日に引き続いて、予告どおり「惹かれてやまない」アップです。

いやーこんなに早く打てると思わなかった。

なんか、考えていることがするりと一つのものになった感じ。

しかも、まだゴールが見えていません。ただ脳内でキャラが勝手に動いてるんです。

でもってこの赤イヌ編はめちゃめちゃ楽しい。うん、いつもと違ってちょっと新鮮だわ。

またも続いてしまいそうで申し訳ありません…っ!