「ぎゃはは!くっだらねェなァ、オイ!!」
「………」
ブラウン管に映っている内容は、あまりにもチープ。
一緒に見ているジャブラの反応も思惑からかけ離れている。
カクは忌々しげに、またテレビへと視線を戻した。
大人の階段
自分が年下である。
それはもう、分かりきっていたのだけれど。
彼の心は、ようやく手に入れた年上の恋人のことでいっぱいだった。
同性だから、とか年上だから、とか。
そんなもの関係なく好きになっていたのに、彼が見ていたのは違う人間。
それが堪らなく悔しくて、必死に強くなった。
彼よりも道力が上がったと分かったときは、ポーカーフェイスを装いながらも内心ガッツポーズを。
“んっとに強くなりやがったなァ…”
久々の手合わせ。そう嘆きながら後ろ頭を掻くジャブラ。
チャンスだ、とそう思った。
“ふふ、目的があったからの”
“目的?”
“スキだ、と言うためにの”
“……誰に?”
“……オマエさんにじゃ”
伝えるだけ伝えて、勢いに任せてジャブラの唇を奪った。
次の瞬間、ジャブラは目をまんまるにしたかと思えばカクを振り払った。
“もう、いい子を演じるのは…やめようと思うての”
その後。しばらくは口をきいてくれなかったジャブラ。
カクとて、それは覚悟の上だったので、そこからジャブラとは距離を置いた。
それでも、ルッチといるときでもジャブラが自分の方に視線を向けているのが分かって、凄く嬉しく思ったものだ。
痺れを切らして自分の下へやってきたジャブラに、カクは尋ねた。
自分が嫌いか、と。
“嫌いになれないから困ってんだ狼牙!!”
そう真っ赤になって叫んだジャブラを、カクは一生忘れないだろう。
“ジャブラの困ることはせんから…恋人になってくれんか”
ジャブラが強請られると弱いことを知っていて、上目遣いにそう言った。
その時は、キスをしても振り払われることはなくて。
カクとジャブラは恋人というものになったのだった。
しかし……しかしである。
確かに、ジャブラが人並み外れて色事の経験が浅いことは承知している。
だからこそ、困ることはしないと告げたのだし、無理強いをする気もない。
だが、この状態はどうなのだろう。
二人での任務のときでも子ども扱い。
二人っきりでいても、ムードをいうものが全然なかった。
なんだか兄弟の延長のような。
そのポジションが気に入らなくて、カクは色々と考えた。
そこで、カリファの一言。
「あぁ見えてホラー映画は苦手なのよ、ジャブラは」
成程、確かに怖いものが好きではなさそうなのはよく分かる。
それなら、そういった類のビデオでも一緒に見れば、ちょっと自分を頼ってくれるかも。
カクの中に、小さな期待が芽生えた。
だが、長官の秘蔵のホラー映画はとてもじゃないがチープな出来で。
ジャブラは怖がるどころか、自分の横で爆笑を繰り返している。
溜め息をつきながら、カクはテレビの電源を落とした。
「カク?」
「………」
「おめェ、コレ見たかったんじゃねェの?」
「………見たくないわい」
「なら、何で俺誘ったんだ?」
「〜〜〜っ!ジャブラは、恋人じゃろ!?」
「………お、おう」
「なら、もうちょっと恋人っぽいムードがあるじゃろぉがァっっ!!」
「む、むぅど??」
「ワシは弟じゃないわい!なんで子ども扱いばっかするんじゃ!!」
完全なるヤツ当たり。
それでもカクはもう止まることはできなかった。
「本当は、ワシのことなんか好きじゃないんじゃろ」
それは、今までずっと抱えていた不安。
口にはできなかった。だって、口にした瞬間に、本当になってしまうのが怖かったから。
「………馬鹿だろ、オマエ」
「馬鹿とはなんじゃ、馬鹿とは……んぐぅ!?」
長い沈黙の後に続いたジャブラの台詞に抗議をするカク。
しかし、それはジャブラの唇によって遮られる。
そう、キスをされているのだ…自分は。それもジャブラの方から。
「ジャ…ジャブラ?」
「………」
「今……その……」
「ア゛ぁ!?何だよ!!?」
「おまえさんから……してくれたんかの」
「………悪ィかよ」
「いや、悪くない!全然全く本当に問題ないわい!!」
ぷい、と横を向いてしまうジャブラは、耳まで真っ赤だった。
そんな顔して、自分からキスしたら悪いのか?と聞かれたら……そりゃもう大歓迎。
もしかしたら、もしかしたら。
自分が思うよりもジャブラは自分のことを好いているのではないだろうか。
「……………からな」
「な、何じゃ?」
「オマエだから……こゆことすんだろ、馬鹿ガキ」
「ガキって……酷い言い草じゃの」
「うるせェよ、ばーか」
ようやく自分の方を見てくれたと思ったら、えい、とデコピンされて、カクは大きな目をさらに見開いた。
「こんなもん見たがってる地点で、十分子どもだっての」
未だブラウン管の中で繰り広げられている映像を指差して言うジャブラ。
だが、その頬はまだうっすらと紅く染まっていて、その素直な反応にどきりとする。
本当にこんな年上のくせに、こんな可愛らしくてどうするのだろうか。
「だったら、こんなもの消して、もっと濃厚なちゅーしてもいいんかのぉVvVv」
カクは手近にあったリモコンでテレビを消すと、ジャブラに圧し掛かって笑う。
その顔があんまり嬉しそうだったので、ジャブラはカクの頭をぽんぽんと撫でる。
「仕方ねェなァ…今日は好きにさせてやるよ」
台詞とは裏腹に赤面した顔のままだったのだけれど。
カクはあまりに嬉しかったので、あえてそれには触れずに思う存分キスをした。
これは…ちょっとだけ大人の階段を昇った日のお話。
FIN
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くずのは「大人の階段って…シンデレラかっ!!」←某芸人風に。
ジャブラ「って、書いたのオマエだ狼牙」(ジト目)
くずのは「はう、うっかり!!」
カク「じゃが、ワシ初めてジャブラといちゃいちゃできたのぉ♪」
ジャブラ「いつもろくでもないことばっかされるかんなァ…」(遠い目)
くずのは「今回も、オチは無理矢理…の予定だったのよねェ…」(遠い目)
カク「な、何故じゃ!?ワシこんなにぷりてぃなのに…っっ!」(机ばんばーん!)
ジャブラ「黒いんだよ」(きっぱり)
くずのは「真っ黒だからね」(親指ブッ立て)
ジャブラ「ぎゃはは!違いねェ、白いとこねェもんなァ」(爆笑)
カク「………ほぉ」(怒)
くずのは「あ、私これで…」(逃亡)
カク「んじゃ、期待に答えようかの」(ぐぁしっ!とジャブラ捕獲)
ジャブラ「……え゛」(滝汗)
カク「楽しみじゃのぉ♪何してもいいんじゃろ、ワシ真っ黒なんじゃから」(笑顔でずりずり連行)
ジャブラ「いやだァァァァ!!」(滝涙)
カリファ「ってか、本当に学習しないのねェ」(紅茶淹れつつ)
くずのは「…ですよねェ」(紅茶飲みつつ)
ってなワケで、ほんわかカクジャブでした〜。
長官オススメのホラー映画はとっても駄作だったみたいで(苦笑)
でも、そのおかげで何だかさらにラブラブになれかたなぁと。
久々に男前な犬が書けて私的に満足な一品でした☆