今日も仕事(主に長官のおもり)が大変だった、とカリファは静かに溜め息を吐く。

そう、カリファはこの塔での仕事が多いので、どうしてもこうなってしまう。

これなら潜入の方が余程楽だ、と心底そう思っていた。

 

 

美人秘書の思惑

 

 

トントン

静かにノックされる自室のドア。

全く、これ以上何の面倒ごとなのだろう。

本日何度目かの溜め息の後、カリファがドアを開けた先には、以外な人物。

 

「よ!」

「よ!じゃないわよ、何してるの、貴方」

「ん〜、任務猛スピードで終えて帰ってきちまったぜ、ぎゃはは!」

「猛スピードって…昨日出掛けたところでしょう?」

 

そう、確かにジャブラの任務は単身の任務で、簡単だと言えるもの。

それでも、処理やら何やらで、終了予定は明後日のはずだったのだが…。

 

「ま、簡単な任務だったからよォ…気楽にやろっかと思ってたんだが」

「……何よ」

「今日が何の日か気付いちまったからな〜、急ピッチで片付けちまった!」

「………全く、気楽なものね」

「何でそんな人事みたいなんだ?」

「何がよ?」

「だって今日はカリファの誕生日だろ?」

「!!」

 

気付かなかった。

いや、まぁレディであるカリファにとって、誕生日など自分の年齢が増えるだけなのだし。

ましてやこの忙しさだ、全く気にもしていなかった。

 

「つっても、プレゼントなんざ用意する時間なくてよォ」

「いらないわよ、別に」

「ま、こんなもんだが受け取ってくれ」

「え!?」

 

渡されたのは、包装も何もされていないままの一本の桜の枝。

 

「いや、今年の桜は遅くてよ…オマエにも見せてやりたいと思って」

 

そう言って、邪気なく笑うジャブラ。

本当に、どうしてくれるのだろう。

クールだと思っていた自分が、どんどんこの男にかき乱される。

それが、嫌どころか嬉しいと思えてしまうことも、何とも言えない。

 

 

 

「……こんなことのために、帰ってきたと言うの?」

 

つとめて平静に。

カリファはそう言った。自分の嬉しさを出してしまうのは、彼女のプライドに反する。

普通なら、自分より年下の女にこんなことを言われたら、きっとこの場を去るだろう。そう思って。

自分の思いとは裏腹の台詞を吐いた。

 

「こんなことって…めでてェ日だ狼牙!」

「おめでたいのは貴方の頭よ」

「違ィねェ!でも、俺が勝手に祝いたかっただけなんだ、気にすんな」

 

俯いてしまったカリファの肩をぽんぽんと叩くと、んじゃな、とその場を去ろうとする。

カリファは、気付けばジャブラの上着の裾を握りしめていた。

 

「カリファ?」

「え゛……あのっ、こ、これはっっ」

「どした?」

「〜〜〜っ!」

 

どうして言えるだろうか、まだここに居て欲しいなどと。

ましてや、自分はあんな酷いことを言ったのに。

そう思ったのに、カリファの身体は心に反応して、反射的にジャブラを捕まえた。

 

「こ、紅茶!」

「………は?」

「いまから淹れようと思ってたのっ!!」

「お、おう」

「一人分じゃ勿体ないしっ!せっかくコレ持って来てくれたしっっ!!」

「あ、ああ」

「ジャブラも飲んで!!」

「………」

 

カリファにしてみれば、こんなに取り乱しているのは珍しいだろう。

全く、普通にありがとうと言えるような可愛らしい性格をしていたなら、と彼女は自分自身を恨む。

案の定、ジャブラは二の句を告げないでいる。

目の前で真っ赤になりながら、大声で突如こんなことを言われて、驚かないはずがないだろう。

 

「さんきゅ♪」

「…………え?」

「いやァ、カリファが淹れてくれるんだったら美味いよな、紅茶」

「え、あ…?」

「やっぱオマエ優しいのな」

 

にかっと笑いながら、そんなことを言い出されて、カリファの方が呆気に取られた。

それはそうだろう。このタイミングで優しいとか……ありえない。

本当なら、自分がお礼を言わなくてはいけないはずなのに。

 

「あ、でも…いいのか?」

「何がよ?」

「誕生日を迎えたオマエが俺に淹れてくれるのって、何か悪ィし…」

「………」

 

全く、ここまでお人よしで、どうしてCP9の一員でいられるのか不思議で仕方ない。

 

「馬鹿ね」

 

私がこんなに貴方を好きなの、貴方は知らないでしょ

 

「だからって、私が淹れたほうが美味しいに決まってるじゃない」

「違ェねェ!!」

「ホラ、立ってないで座って頂戴」

 

笑いながら席を勧めて、反対に椅子から立ち上がるカリファ。

彼女は手つきよく桜の枝を花瓶に生け、コンロで湯を沸かし始める。

こんなに軽やかな気持ちで迎える誕生日は、初めてだった。

 

 

 

 

さぁ、鈍感な貴方に、何から話したらいいのかしら

だって好きなんです、どうしようもなく

 

FIN

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ジャブラ「やっぱカリファの紅茶旨ェな〜」

カリファ「それはどうも」

ジャブラ「何かコツでもあんのか??」

カリファ「そうね………“愛”かしら??」(くすくす)

ジャブラ「………オマエ紅茶好きだからな〜」(にこにこ)

カリファ「………鈍感」(ぼそりと小声)

ジャブラ「…んァ?」←わかってない

カリファ「……何でもないわよ」

 

はい、4月の秘書の日に間に合わずお蔵入りしてたカリジャブ小説です。

間に合いそうにないと捨ててあった小説なんですが、気に入っていたので今回完成させてみました。

で、時期はずれにも10月末にアップしてみせるという暴挙っぷり。

あーはっはっはっは!もうダメ人間筆頭だね★(親指ブッ立て)←最低。

いつもはたじたじになってるジャブラさんが多いんですが、今回はほんわかと。

やっぱカリジャブ好きだなー、書きやすいし♪何より表向きなのがいいですね〜。