「あのさァ…やるだけ無駄だと思うんだけど」

「…んなもん、やってみなきゃわかんねェっての!!」

もう、何回この繰り返しをしてきたのかしら。

…もっとも、この諦めの悪さが可愛いんだから仕方ねェけどさァ…

 

 

ほんの少し前のハナシ

 

 

“すげェガキがいんだよ”

 

久々に海軍本部に赴いた時のこと。

何回も軍法会議をエスケープしていたら、流石に警告が来て。

俺としては一介の中将が一人いねェくらい問題ねェとは思ったんだが…。

副官やら軍曹やらに泣きつかれ、しぶしぶ赴いたその日、珍しくサカズキがそう話かけてきた。

 

“別にそれならそれで、アンタんとこ持ってきゃいいでしょ”

“だが、まだ若すぎだ”

 

珍しい。使える人間なら、年齢など関係ないと豪語するこの男が。

一体いくつのボーヤだってんだよ?

 

“いくつ?”

“部下の報告では7歳ぐらいだ…確か”

“………それ、若いってもんじゃないでしょ”

“だが、あの力は正義のために使われるべきだ!!”

“だって子ども…”

“だからこそ、今のうちから政府への忠誠を叩き込む必要がある!”

“………”

 

ダメだ、本当にこの男は。

そんなガキまでこんな世界に巻き込む必要はないだろうに。

ま、最も俺ァ関係ねェけどさァ…

 

“ま、せいぜい使える子に育ったらいいんじゃない?”

 

そう言って、興味もなく立ち去って……それからずっとそのことは忘れていた。

まさか、自分がサカズキよりも先にその子どもに会うことになるなんて、思っていなかったからだ。

 

 

 

「彼ですよ、例の子どもというのは」

 

海軍の施設の一つに、その子どもがいた。

その鍛錬を見る限りでは、かなりの戦闘能力が伺える。

お互いに戦い合っているここのメンバーを見たけれど、彼の才能は群を抜いているのだ。

それなのに、その眼は全然満足いった様子がない。

貪欲に、獲物を求める獣のような眼。

ぞくりと悪寒が走った。

なんて眼ェすんのかねェ…ガキのくせに

不意に、視線が合った。

無論、むこうからこちら側がわかるはずがない。

それなのに、その鋭い視線は確実にクザンを捉えていた。

より強い者と戦いたいという決意を湛えて。

 

「ねェ…ちょっと俺戦ってみたいんだけど、いい?」

「え……中将殿が……ですか?」

「大丈夫だって、壊しゃしねェからさ」

 

ぱたぱたと手を振って、返事を待たずに彼の方へと向かう。

俺を見ても、眉一つ動かすだけに留まった反応も凄いと思った。

他の者など、ここにいるはずのない中将の登場にざわめきあっているというのに。

大した肝の据わりようじゃないの…

このボーヤへの興味が、最高潮に達した瞬間だった。

 

「ジャブラ……っていったっけ?俺とも手合わせしてくんねェ?」

「………アンタ、強ェの?」

「ん〜どうだろうねぇ」

「コラ!中将殿に何て態度……」

「いや、構わないし」

「しかし……」

「俺ァ構わねェってんだろ、クラァ!」

「す、すみませんっっ!」

「で、どーかなボーヤ??」

「俺ァボーヤじゃねぇよ、ちゅーじょーどの」

 

振り向き様に放たれた一撃。

不意打ちとはいえ、大したものだ。

あと一瞬反応が遅ければ、もろにくらっていただろう。

その蹴りは周りの空気を薙いで、避けたクザンのサングラスを掠めた。

 

久々に、視界がクリアになった気がする。

もう何年も前から、サングラス越しの世界だけを見てきた。

……どれだけの戦闘を行っても、彼の顔から外れることはなかったのだ。

それをこんな子どもがやってのけるとは。

面白い。クザンの顔は、極めて愉しそうにジャブラを見つめる。

そして。

 

「んじゃ、俺も反撃ね」

 

その台詞と共に、クザンの方からも攻撃を開始した。

 

 

 

「痛っ!」

「あぁ、気付いた?」

「!」

「ごめんごめん、思ったより強いんで、手加減を忘れちゃってね」

 

コレは半分嘘。別に加減を忘れた訳じゃない。

加減してなかったら、今頃目の前の子どもは存在していないはずだ。

それでも思ったより強かったのも事実で、クザンは十分楽しんでいたのだが。

 

「………嘘だ」

「?…何が?」

「手加減してたくせに……俺がガキだからって馬鹿にしてんのかっ!?」

 

涙目で睨みつけてくる小さな少年。

いや、痛くて泣かれるならともかく……ねェ?

 

「いやいや、ちょっと落ち着きなさい」

「うるせェ!オマエらなんか嘘つきばっかじゃねェか!!」

 

成程。この子どもは、周りの人間が余程信頼できないらしい。

ま、周りは年上のライバルと大人の政府高官ばっかだし、信用なんてしないのは正しいけれど。

痛みより、自分の矜持のほうが大事だとは…。

まったく、怖い子どもだねェ…

 

「ふうん……よく分かってんじゃねェの」

「何がっ!?」

「加減しなきゃ死んでたからね、まさか人殺すワケにいかないでしょ」

「〜〜っ!!」

「………悔しい?」

「……るせェよ」

 

しかし、悔しそうに唇を噛んでる顔は子どもらしくて。

涙で濡れた大きな目は、庇護欲をそそるようなもの。

矜持を保たなければ、年上に囲まれながら自分を保ってこられなかったのだろう。

 

「なら、次までに強くなって頂戴」

「……次?」

「次に来たときは、俺に本気出させるようにね」

 

そう言うと、驚いたように見開かれる眼。

ぽん、と頭に手を載せると、くすぐったそうに身をよじる。

 

その様を見て、久々に微笑ましい気分になりながら、クザンは海軍本部へと戻っていった。

 

 

 

 

 

「あのさァ…やるだけ無駄だと思うんだけど」

 

初めてあったときから、3年が経つ。

今日までに、ここに来るたびに戦いをせがまれるのだが、いつもクザンの勝ちは決まっていた。

もういい加減、諦めたっていいはずなのだが。

 

「…んなもん、やってみなきゃわかんねェっての!!」

 

もう、何回この繰り返しをしたのかわからない。

だが、この諦めの悪さも、クザンにとっては愛おしいと思えるもの。

彼は苦笑しながらも、向かってくるジャブラの攻撃をかわし、反撃へと映った。

 

 

 

「大丈夫?」

「はぁ…はぁ…何で勝てねェんだよ!!」

「ん〜何でだろうねェ?」

「また……っ!俺ァもう子どもじゃねェっての!!」

「………まだ10歳でしょ?」

「“もう”10歳なんだよっ!」

「……あ、そう」

 

って言っても、10歳の子供相手に手を出したら犯罪だよねェ…

 

とはいえ、昔は可愛らしいだけだったのがだいぶ育ってきたのは事実で。

このまま何もしなくて誰かに横から掠め取られるのも……とっても嫌。

これからどんどん育っていけば、それも遠くない未来になりそうなのが、もっと嫌。

 

全く。俺ァいいオンナにしか目を取られたことなんかないんだぜ??

 

「…ちゅーじょー?」

「あぁ、言い忘れた…」

「?」

「俺ァクザンってのよ、覚えといて」

 

ちゅ、と音を立てて額にキスをすると、そのまま驚いたように壁際に逃げるジャブラ。

とはいえ、ベットに寝ていたのだから、それほど距離が保てるわけはないのだが。

 

「ななななな、何すんだよォ!!」

「ん?今のはおまじない」

「………は?」

「俺以外には誰にも負けないように」

 

これは半分ホント。俺以外の誰かにこの子犬が負けるなんて報告聞きたくない。

 

「負けねェよっっ!アンタにだって!!」

「ま、せいぜいがん強くなりなさいよ」

 

ぱたぱたと手を振りながら去っていくクザンに刺さるのは、今も昔も同じ視線。

絶対にオマエより強くなるんだ、という明確な意思を秘めた…。

そうでなければ面白くない。

精々今日のことを思い出して強くなりたいと鍛錬でもすればいい。

 

他の誰かすら、目に入らないほどに、ね

 

くぃ、と少しだけずれたサングラスを上げながら、クザンは嗤った。

 

これは、クザンが中将から、大将青キジになるより少しだけ、ほんの少しだけ、前の話。

 

FIN

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サカズキ「おーのーれー!!」(拳、わなわな)

クザン「何よ、怖い顔しちゃって」(いけしゃーしゃーと)

サカズキ「貴様!小官が遠出して任務をこなす間にちゃっかりと!!」(机ばんばーん!)

クザン「だぁって可愛かったんだもん、仕方ねェじゃん」(胸張り)

サカズキ「貴様……っ」

仔ジャブラ「ちゅーじょーっ!」(クザンに飛び蹴り)

クザン「あらあら、なーに??」(さらっと避けた)

サカズキ「っ!!」(生で会えて嬉しいらしい)

クザン「ってーかね、俺もサカズキも中将だから名前で呼んで欲しいんだけど」(ひょい、抱き上げ)

仔ジャブラ「そーなの?」(サカズキに向かってさらっと尋ね)

サカズキ「ま、まぁな」(見つめられて嬉しいらしい)

仔ジャブラ「俺ァジャブラってんだ、よろしくサカズキちゅーじょー」(にぱ)

サカズキ「っ!よ、よろしくお願いするっ、つーかウチの隊に来ないか!?」(顔真っ赤)

仔ジャブラ「ん〜、クザンちゅーじょーに勝てからなら」

クザン「悪いねェ、サカズキー」(でもコレは俺の、とジャブラをぎゅーっ)

 

ってなわけで、キジジャブにサカズキさんを絡ませてみましたっ!…チャレンジャーだよ自分。

サカズキさんは自分を小官って謙遜した呼び方しているといいさ!でもって鬼畜さあまってシャイだともっといいっっ!!

…まぁ、裏で使うなら鬼畜で俺様何様な大将赤犬を希望いたしますがね(親指ブッ立て!)

 

なんかかなり毒気の抜けた中将コンビになってしまったYO

ただし、やっぱりクザンのが抜け目がないらしい。さーっすがぁ、未来の大将青キジ★