「報酬が…あってもいいだろう?」

今ではすっかり耳朶に馴染んだ声が、甘く響く。

全く…あの程度の仕事ぐれェ容易いはずなのによォ…。

ジャブラは、目の前の美丈夫を見つめながら、これ見よがしに溜め息を吐いた。

 

 

これもまた、日常。

 

 

というのも、ジャブラがルッチに借りを作ったからだった。

仕事の上で借りを作るなど、絶対にしないことなのだが…ちょっとしたアクシデントがあったりしたのだ、これが。

担当直入に言うと……長官がファンクに投げ飛ばされた。それも、外に向かって。

まぁファンクフリードにしてみれば、ただ単にじゃれついただけなのだろうが。

で、窓から(しぶしぶ)宙を舞う長官の救出をしたのはいいが…。

パニくった長官が暴れてくれたおかげで、二人してコンクリートに激突する羽目に。

その結果、とりあえず長官を庇わないと死ぬだろうとそちらを優先しすぎたため、骨折したとそういう訳。

とはいえ、とっさに腕で庇って片腕の骨折のみで済ませたのは流石CP9だとも言えるのだが。

まぁ、そういうわけで奇跡的に打ち身で済んだ長官に散々謝られて、一週間の休息となったのである。

その任務の皺寄せが、たまたま長期の任務から帰ったばかりのルッチにいったという訳。

 

その任務はルッチにしては簡単すぎるものなはずなのだが。

帰ってくるや否や、医療練で安静にしていたジャブラの元で言い出したのだ。報酬が欲しいのだと。

 

弱いのがもはやばれている耳元で囁かれれは肌はゾクリと粟立ち。

首筋の柔らかい肉を吸われて、瞬時にいくつもの花が咲いた。

 

「やめろ…っての」

「いやだ」

「…目立つだ狼牙」

「目立たなければいいのか?」

 

いいわけがない。

大体、自分は絶対安静のはず。だからこの退屈な場にずっと寝かされているというのに。

どうしてこの男をここに入れたのだろう…、否、それは愚問だ。

何せ、この島でロブ・ルッチに逆らう人間など、一人たりともいないのだから。

 

「とにかく、止めろって」

「……残念だな」

「え?」

「オマエが怪我さえなければ、思う存分報酬をもらうのだが」

 

ルッチを止めようと躍起になっていた無事な方の手は、あっさりとルッチに捕まる。

だが、行為を続けることなく、首筋から顔を上げると、捕まえた手の指先にそっと口付けた。

 

「〜っ!!」

「全く…長官にも困ったものだ」

 

オマエは俺のものだというのに、と嘆きつつ、さらに指先に舌を絡めるルッチ。

その行為は、だんだん色めいたものになり、ジャブラは息を詰めて身じろぐ。

普段は全く気にしないが、こういう時だ、指先だって十分な性感帯だと思うのは。

 

「ぁ……んぁ…」

 

声など抑える努力も最初のうちだけで終わってしまう。

この男の巧みな愛撫は、脳髄から自分を支配するのだから。

本当にフェロモンの塊のような男だ、この馬鹿猫は。

 

「全く…」

「ちょ…マジで止めろって…ぁっ!」

「止めて欲しいのなら、そんな声を上げるな」

「だ…れのせ…ぇっ!」

「止まれなくなるだろう」

 

そう言いながらも、ルッチは名残惜しそうにジャブラの手を開放する。

そうして、痛々しくギプスに巻かれた腕に眼をやる。

 

「骨ぐらい…さっさと繋げろ、バカヤロウ」

「……無茶言うな」

 

ルッチなりの心配なのだろうが、骨など自分の意思で繋げられる訳ないのだ。

いつもながら無茶を言う男である。

それでも、ぽんと自分の頭に載せられた掌の感触はなんだかくすぐったくて。

心配なんかされると気味が悪いと悪態をつきながらも…少しだけ。

ほんの少しだけ喜びを感じてしまう。

全く、自分も堕ちたものだ。

一流の暗殺者としては、もはや落第ものである。

自分の感情一つ殺せないなんて。

 

はぁ…

 

ジャブラはまた深く溜め息を吐く。

それは嘆きでも悲しみでもなく……諦め。

だって仕方ない。それでも、目の前の傍若無人な男は自分にとって特別なのだ。

…認めたくはないが。

 

 

「…報酬だなんてチンケなこと抜かすなよ」

「ジャブラ?」

「もうとっくにくれてやっただ狼牙」

 

心ごと。自分の奥深くにあるものから、身体まで全て。

全てくれてやったというのに。

 

これ以上、何がある?

 

「………」

「今更だろ、馬鹿猫」

「…確かに」

 

そう言って笑うルッチの顔も、暗殺者のそれとしては失格だろう。

それでも、関係ない。

だって、互いが互いの所有物なのだ。そんなことは関係ない。

理性も仕事も……全部。

必要なのは、本能だけだ。

 

不意に。なんだか不意に。

無償にキスがしたくなった。

 

だからこそ、本能のままに、ジャブラは隣にあったルッチの顔を引き寄せると、そっと唇を寄せる。

 

「!」

「ま、今日はここまで、な」

「……十分だ」

 

そう言って、額にキスを落としてくるルッチ。

らしくない、とも思うのだけれど。

 

たまにはこういうふわふわと甘い気分でいるのも、悪くないものだと思った。

 

FIN

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くずのは「う゛ぉェェェ…」

(突然ですが、甘さが規定値を越えたため、砂糖を吐いてます)

カリファ「あら、くーちゃんどしたの?」

カク「イタリアでの胃炎がぶりかえしたかの?」

くずのは「いえいえ、失礼。あまりの甘さに」

カリファ「最近文章スランプ気味だったものね」

カク「旅行に行ってる間に親に小説のストック全消しされたしの」←実話

くずのは「あう゛…」(シクシクシク)

ジャブラ「じゃ、俺もう受じゃなくなるのかっ!?」(眼ェキラキラ)

全員「それはないから」(即答)

ジャブラ「あう゛…」(シクシクシク)

ルッチ「で、続きは?」

くずのは「え??」

ルッチ「治ったら喰っていいんだろう」

くずのは「あー、もうピンピンしてるんでテイクアウトしてっていいよん」(ジャブラをぐるぐる簀巻きに)

ジャブラ「ちょっと待て」(滝汗)

ルッチ「続きだ、ジャブラ」(ジャブラをずりずり連行)

ジャブラ「だから、俺には権利ねェのかよォォォ…っ!!」(滝涙)

 

くずのは「ないよ、そんなん」(投げやり)

カク「ないの」(粗茶をずずっと)

カリファ「ないわね」(眼鏡、クイ!)

 

不幸なわんこに人並みの権利が持てる日は…やっぱこないと思うな、うん、来ない。