「うぉぉぉらァ!馬鹿猫ァァァ!!」

ばぁん!とドアが開け放たれる。

おかしい。

今日はこんなドアが壊れんばかりに強襲される理由など一つもないはずなのだが。

 

 

これが好機というものか

 

 

ある晴れた昼下がり。

のんびりと、昼間から…というか、この島に夜はこないのだが。

ともかく、だ。ルッチは自室でゆるりとワイングラスを揺らして香りとともにその味に酔っていた。

この暗躍機関のNo.1ともなれば、なかなかない休みとあって、ゆったりと自分好みに過ごす。

不満を言えば、ジャブラと入れ違いの仕事であることだけだったが、予定通りに任務が済めば、彼がエニエス・ロビーに帰還するまで、あと数分といったところだろう。

その後は、今日どちらも予定はないはずだし、恋人らしく過ごしたい…というか、強制的にいちゃいちゃすることを決定事項として、ルッチはジャブラの帰りを待っていた。

 

しかし。

しかしである。

現実はかくも予定通りにはいかないものだ。

 

「出てこいや、馬鹿猫ァァァ…!!!!」

ばぁん!

ルッチの部屋の、作りが豪華な分厚い扉が、いとも簡単に開け放たれる。

ジャブラが帰ってくるのは分かっていたし、そのために鍵をかけてもいなかったのだが。

だからといって、爆発音がしそうなほど強い力でこじ開けられるとは想定外だ。

ふと、ジャブラの機嫌を損ねるような真似をしたかを考えてみる。

しかし、彼のズバ抜けた頭をもってしても、検索結果はゼロ。

大体、今日ジャブラと顔を合わせるのは久々なのだ。

しかも互いに任務中で電話もしていなかった。

したがって、何時ものように原因らしい原因というものが見つからない。

そもそも、何で帰ってくるなりこんなに激昂しているのかも、さっぱり分からないのだ。

 

「……ドアの開け方から育ちの悪さが出てるなァ、野良犬」

 

分からないからといって、下手に出るようなタイプではもちろんない。

お決まりの口上で、ちろり、と無作法者をねめつける。

 

「るせェよ!こんな時間っから酒なんか飲んで気取ってんじゃねェ!!」

「気取るもなにも、ここは俺の部屋…」

「うっせェ!黙れよ!!」

「……ぅ!?」

 

凄い剣幕で掴みかかってきたと思えば、黙れと喚き散らした挙句、ジャブラの方からキスしてきたのだ。

しかも、彼にしては珍しく、ねっとりと舌を絡めてくる濃厚な口付けで。

驚くなといっても無理はない。

いや、むしろ嬉しいハプニング…なのだろうか。しかし腑に落ちない。

 

「あ゛ー!とりあえず落ち着いたわ」

「……落ち着いたなら、この状況を説明…」

「ってことで、ヤるぞ」

「………は??」

「あ゛!?いつもはてめェから圧し掛かってくるだ狼牙!!」

 

どすり、と自分が今まで寛いでいたソファに押し倒されるまで、不覚にも無抵抗だった。

いやいやいや、待て!これはオカシイ。

どう考えたって、逆だ、立場が。

 

「おら、脱げ!!」

「だから、待てと言っている!」

「アぁ!?」

「一体全体どうし……」

「るせェ!俺が黙って足開いてやるっつってんだ狼牙!!」

「………え?」

 

ということは、立場が逆転とかそういったノリではないらしい。

すると、これはジャブラが積極的という素晴らしい好機ということになるのだろうか。

いや、だが、しかし。

やはり気になる。

この激昂っぷりもさることながら、どうしてそういう方向に思考が行き着いたのか…。

 

「だから、その理由を話せと…」

「口直しだ!!悪ィか、バカ野郎!!」

 

口直しって…つまり直さなきゃいけないほどのナニかを任地でされたのだろうか。

もはや、口癖を使われたことすら気にならず、俺の頭の中は?で埋め尽くされている。

よもや、このロブ・ルッチともあろうものが、指先一つ動かせないほど驚愕する日が来るとは。

 

「………もういい」

「……は?」

「興冷めだ、他あたる」

 

俺が驚きで思考が定まらない状態だったというのに、その状態に追い込んだ張本人は、あっさりと身体を退かして立ち去ろうとする。

いや、ちょっと待て。興冷めって何だ、他あたるってどういうことだバカヤロウ!!!!

 

どさり…っ!!

 

「…何だよ」

「自分の言いたいことを喚き散らして退出なさるとは、随分と酷いじゃねェか」

 

形成逆転。

今度は俺の方がジャブラを引き倒し、その上に馬乗りになった。

 

 

 

「他のヤツのところにいって、何する気だ?」

「…憂さ晴らしすんだよ、誰かさんがノリ悪ィからな」

「それは堂々と浮気宣言か??」

「は??一緒に酒飲んで愚痴るのが浮気ィ?」

「………」

 

どうやら、自分に迫ったのと同じことを他のヤツにする気はないらしい。

多少癪に障るが、とりあえずは自覚があっただけよしとしよう。

 

「で、口直しが必要なことされたのか?」

「………あー、腹立つ」

「落ち着け………何されたんだ?」

「オマエがその殺気を落ち着けろよ」

「で、何があった?」

「………潜入してたんだ」

「ああ」

「都市に溶け込むように努力して、一般人の生活してたってのによォ!!」

「…それで?」

「なななな、舐められたんだぞ!?耳元から首筋にかけて全部!!」

「……何だと」

 

それはなかなかどうして聞き捨てならない。

これは、もう根掘り葉掘り聞き出して…。

 

「分かるか!?

フツーの生活に耐えて、なんとか近所と世間話して。

何でか知んねェけど診療所で白衣着て仕事させられて!

したら、『先生の首筋旨そうですね』って思いっきり舐められて!!

ア゛ー!俺ァおっさんだぞ、40間近の!!

もう鳥肌ものっつーか、オマエ以外にそんなモノズキいたのに驚きっつーかっ!!

ありえねぇよ!!!」

「……で、その後どうしたんだ」

「……………」

「ま、まさかそこから人に言えないようなアレやコレやソレを!?」

「するか、バカ!!

なんとかその場は耐えて、夜中に獣化して闇討ちしたっての」

「……殺したのか?」

「半殺しまでだよ……獣がァってトラウマになるぐれェに」

「………そうか」

「一応、俺は任務以上の殺しが出ねェように苦労してんだよ!!

……でも殺っときゃよかった」

「全くだ、俺が許した」

「バカが、こんだけ耐えたのに、正体が浮き彫りになりかねねェって長官にお小言くらったんだぜ!?やってらんねェ!!」

「落ち着け…で、それが嫌で首に包帯巻いてるのか?」

「あ?これァ嫌で洗って洗って掻き毟ってエッライことになってっからだよ」

「………」

 

成程。

先程から仄かに感じる血の匂いはここからか。

しかし…。

 

「折角の綺麗な首筋が…勿体無ェな」

「ちょ、何して…っ!?」

「消毒だ」

 

包帯の上から、繰り返しキスを落とす。

直にできないのが心底残念だ。

しかし、それでも痛むのか、びくりと反応するジャブラ。

それが行為の最中の反応と似ていて、思わずぞくりとくる。

 

「……ジャブラ」

「なァ……そのまま喰いちぎってくんねェ?」

「……何を言い出す?」

「おぞましいだろ、触れたくねェだろ?」

「くだらねェ……オマエだから触れたいんだ、バカヤロウ」

「……やっぱ気障だ、テメェは」

 

そう言って、ようやくジャブラに笑みが戻る。

これでなければ調子が狂う。

 

「…そういや、口直しがまだだったな」

「……え゛?」

「そんな憂さなんか吹っ飛ぶぐらい、じっくり喰らってやる」

 

珍しくオマエから誘ってきたんだ、十分愉しませてもらおうか、とジャブラのネクタイを解いて投げると、抵抗する腕をつかみ取る。

そうして、その指先に恭しく口付けると、手加減しろよ、と真っ赤になって顔を背けるジャブラ。

鳴呼、この包帯に巻かれた部分が、自分以外の誰かに蹂躙されたというのか。

 

………その莫迦野郎をこの世から抹消してやりたい

 

「こら!」

「っ!いきなり髪を引っ張るな、バカヤロウ」

「オマエ、今何かヤバイこと考えてただ狼牙」

「…いや」

「とにかく!報復なんて馬鹿なこと考えずに、今は俺のこと考えてろよ」

「………了解」

 

確かに、折角の好機なのだ。

そんなクズのことを考えるより、目の前の彼をどう料理するか考えるほうがずっと楽しい。

 

 

そのままジャブラの上着を開き、腰布を解くと、その白い体躯に自らの身体を重ねた。

 

FIN

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何とか表でもセーフですよね、これ。

き、きっと……大丈夫…なはず。

最近襲い受が非常に好きです。男前で行動派なジャブラさんは理想的!

やっぱ裏風味なのは大人なジャブラさんのが書きやすいなァ…(前回の反省)

 

ルッチ「……長官」(ぎろり)

スパンダム「な、何だよ?」(滝汗)

ルッチ「ジャブラに触れた不届き物を消しに行って来て構いませんか?」(どーん)

スパンダム「ダ、ダメに決まってんだろ」(机ばんばーん)

ルッチ「俺のモノに勝手な真似をされて、俺は非常に怒っているんですが」(腕組み、イライラ)

スパンダム「だ、だってよぉ…(これ以上余計な数死なれたら困るし…)」(滝汗)

ルッチ「非常に非常に立腹しているんですが」(足をリズミカルに鳴らしつつ)

スパンダム「あぅ…カリファー」(泣)

カリファ「セクハラです」(眼鏡、クイ!)

スパンダム「泣きついたから!?」(がぼーん)

カリファ「ま、ともかく…日程調整して…明日から2日、休暇をあげるわ、二人に」

ルッチ「休暇?」

カリファ「つーことで、がっつり身体で癒してあげなさいな」(にっこり)

ルッチ「!」

カリファ「こういうときわね、傷ついた恋人を優しく慰める黄金パターンよ…

大丈夫、あなたの部屋で誰が泣こうが喚こうが一切近寄らないようにしておくから」(いい笑顔で親指ブッ立て)

ルッチ「……分かった」(いそいそと事後のジャブラを寝かせた自室へ戻る)

スパンダム「……俺、ホントにここで一番偉いのかなァ…」(机にのの字)

 

ジャブラ「はっ!?何だか今すぐ身支度して部屋に戻んねェと危ない気が!!」(飛び起きて滝汗)

 

当然、ジャブラが逃げる前にルッチに捕獲されて、身体で癒されちゃう訳ですが。

まぁ、恋人同士の黄金パターンだよねー(ものすっごいいい笑顔)

 

ジャブラ「捨ててしまえ、そんな黄金パターン!!」(卓袱台返し!)