「ちょ…何でオマエがここにいるんだよっっ!」

「あら、随分なご挨拶ね…私はただ感想を訊きにきただけよ?」

そんなに焦るほどのことかしら、と自分よりも遥かに年若い女に言われても、焦るものは焦るのだ。

だって入浴中に風呂場まで堂々とやって来られた日にゃ、焦るの俺だけじゃねェだ狼牙。

 

 

泡の海で、貴方と二人。

 

 

「あ゛ー疲れたァ…」

 

ぐったりと。

任務から帰ってきたばかりのジャブラは開口一番、そう言った。

 

「…その程度の任務で疲れたとは、野良犬は体の作りからして貧弱だな」

「んだと…っ!!」

「やめんか、オマエさんらどうしてそう絡まないとやっていけないのかのぉ…」

「落ち着け、ジャブラ」

 

偶然にも、今日は広間にかなりの人数が集まっていたようだ。

カリファが持つティーポットを見て、ティータイムだったのかと推測する。

ルッチに売られた喧嘩を、ついいつもの調子で買おうとしたものの、膝下の骨が軋んで、正直カクとブルーノの制止に助かったとも思った。

とはいえ、このままでは格好がつかないので、しぶしぶといった体を崩さず、どっかりと自分の椅子に腰を下ろす。

それに呼応するかのように、一緒に帰って来たフクロウ、クマドリの両名も席に着いた。

 

「でも、貴方の口からそんな言葉が出るのは珍しいわね」

 

こぽこぽ…

それを見計らったかのように手馴れた調子で帰って来たジャブラたちに紅茶を振舞うカリファ。

紅茶のいい香りが辺りに漂う。

 

「そんなに大変な任務だったのかしら?」

「ちゃぱぱー、逆なのだー」

「逆とはいったいどういうことかの?」

「よよい!簡単すぎる任務だったんだぁぁあ…っ!」

「簡単な任務で疲れるとは器用だな、馬鹿犬」

「うっせェ、化け猫が…ちっとも身体が動かせねェ上に、10時間以上海列車に乗りっぱなしぜ?身体中軋んでも仕方ねェっての!!」

 

そう、ジャブラの疲れた理由とは、大暴れできる訳でもないのに、お偉方の面子を保つために遠方まで、それも諜報部員3人で赴くハメになったことにあるのだった。

訊けば、フクロウもクマドリも座り通しは結構大変だったようだ。

確かに、その任務は嫌だとこの場にいた誰もが思う内容だった。

 

 

「あら、ならいい物あげましょうか?」

 

 

お疲れ様、と労いの言葉をかけながらカリファはにっこりと笑みを浮かべた。

 

 

 

 

「どーしたもんか…」

 

つかの間のティータイムも終わり、各々が部屋に戻る。

ジャブラも例外ではなく、狼の間に戻って来たものの、手の中できらきら光る宝石のようなソレを見つめて、溜め息を吐いた。

 

“お風呂に入れると、体中の凝りなんてなくなるから”

 

そういって渡されたのは、バスバブルとかいう代物だ。

何でも、風呂に入れるとあーら不思議。泡風呂に大変身するらしい。

しかし、40近い自分がコレを使うというのはどうなのだろう。

現に、渡されたときにカクやルッチにかなり揶揄われたのだ。

だが、好意で渡されたものを反故にするなど、ジャブラの性格上できるはずがない。

何より、どうせフクロウたちも同じものをもらっているのだし、彼らも性格から考えると律儀に使うはずである。

何より、今ある肩や腰の倦怠感が取れるのなら、使ってみるのもいいかもしれない。

カリファがくれたものが、人体に悪いものであるはずがないのだし。

そう思うと、そこからの行動は早く、ジャブラは手の中のソレを浴槽に放り込むと勢いよく湯を溜め始めた。

 

 

「をををを…っ!?」

 

衣服を脱いで浴室に入ると、浴槽には泡がこんもりと溜まっていた。

そのことに一種の感動に近いものを感じつつ、ジャブラは身体を流すと、意を決してその中へと身を沈めた。

 

「!」

 

…何というか、これが気持ちいい。

ふわふわの泡が身体に纏わりつく感触も気持ちがよく、確かに血行がよくなりそうだった。

試しに泡を手にとって身体をこすると、マッサージ効果もあるようだった。

フローラルな香りは自分に不似合いかもしれないが、たまにはこういうのも面白いかもしれない。

何より、ここには自分だけなのだし、ちょっぴり楽しんでみてもいいだろう。

手で掬った泡に息を吹きかけると、浴室に小さなシャボン玉が舞った。

 

 

「楽しんでもらえてるみたいね?」

「おう、これ結構面白……ってぇえ゛ぇぇぇ…っ!?」

「あら?何か問題があったかしら?」

「つーか、オマエがここにいることが問題なんだ狼牙!!」

「え?」

「え?じゃねェ!!何でここに居るンだよ!ここ俺の部屋で、風呂場だぞ!!」

「あぁ、ブルーノに頼んでバスルームまで直通にしてもらったの」

「阿呆か!?大体、女が男の部屋のっ!しかも風呂に入ってくるってソレおかしいだろ狼牙!」

「どうして?」

「…え?」

「確かに普通ならそうかもしれないけど…恋人の部屋に侵入するならアリなんじゃない?」

「ばばばば…馬鹿言えっ!!」

 

そうなのだ。何せカリファとジャブラは恋人なのである。

とはいえ、この状態で分かるように、ジャブラの方が、こう色恋に不慣れではあるのだが。

 

「お、襲われちまったらどうしよう、とか…思わねェのかよ」

「私が、貴方に?」

「とととと、当然だ狼牙っ!」

「そうね、もしそうなったら光栄だわ…」

 

するり、とカリファの繊細な指先がジャブラの頬に触れる。

 

「貴方になら、襲われたいもの」

「!!」

 

耳元でそう囁かれて。

ジャブラはもう湯中りしたかのように真っ赤に染まる。

こうなると、反応に困るのはジャブラのほうで、ぶくぶくと半分ほど湯に顔が沈むほど俯いた。

 

「ふふ、でも分かってる?」

「?」

「今ピンチなの…貴方の方よ?」

「……は?」

「私の能力…まだ理解できていないでしょう?」

 

妖艶に笑いながら、カリファはトポンと片腕を湯の中に入れる。

すると、浴槽の中の泡が一気に増え始めた。

 

「うぉ…っ!?」

「……泡だらけっていうの、どうかしら?」

「おま…っ増やしすぎ……っ!??」

 

制止するために湯の中にあったカリファの細い腕を掴んだ…はずだったのだが。

指先に力が入らない。

いや、指先どころか、ジャブラの身体が、身体中が。

足の爪先から頭の天辺まで、身体が痺れて力が抜けていくのを感じる。

 

「悪魔の実の能力者が水に浸かると、力って半減するでしょう?」

「お、おう」

「それに私のアワアワの実の能力を足せば……ね」

「!」

「もう力なんて入らないでしょう?」

「な…っ!?」

 

確かにその通りだった。

身体中のどこもかしこも、ジャブラの意思を裏切ったかのように動かない。

 

「さて、残念ね」

「カ、カリファ?」

「襲われたかったんだけど…これじゃ無理みたい」

「ちょ、オマエなんで着衣で風呂ン中入ってんだ??」

「だってこれじゃ私から襲うしかないじゃない」

「ななな…っ!?」

「では、“イタダキマス”ってとこかしら?」

 

泡の海の中、桜色の唇をぺろりと一舐めするカリファ。

浮かべる笑みは、捕食者のソレ。

 

「とりあえず、お手柔らかに頼むわ」

「ふふ、了解」

 

くすくすと笑ってジャブラに圧し掛かると、カリファは彼の顔に両手を添え、目の前にある唇に甘く噛みついた。

 

泡に塗れた甘い戯れは始まったばかり。

 

 

 

FIN

_ _ _ _ _ _ _ _ _

 

え、えーと。多分表で大丈夫だと思うのですが…。

何というか、言い回しをちょっと色っぽく逝こうとか思ってたら、エロスな風味がっ!

ま、仕方ないよね、カリファ姐さんだし。(←褒め言葉)

 

くずのは「で、どうでした?ご感想は」

カリファ「なかなかに…愉しかったわ」

ジャブラ「の、上せた…」(ぐったり)

くずのは「をや?肩凝りとれませんか?」(しれっと)

ジャブラ「うるせェよ!!」(涙目)

カリファ「ちゃんとお風呂上りにマッサージしてあげたから大丈夫よ」(にっこり)

 

ちなみに翌日。

広間にて。

 

フクロウ「ちゃぱぱーいい香りなのだ」

クマドリ「よよいぃ、これが“ふろーらる”とぉ、いうやつかぁぁ??」

カク「ほうほう、オマエさんたち、アレ使ったんじゃのぉ」

ルッチ「だが、ジャブラがアレを使うか?…不似合いな」

ジャブラ「るせェよ」(いい香りさせながら入室)

スパンダム「うわ、今日ジャブラいい香りだな」

カリファ「セクハラです」(眼鏡キラーンと入室)

スパンダム「え?ジャブラに絡んだだけで??っつーか、お前ら二人とも同じ香りだな」(小首かしげ)

カク「え?」(滝汗でジャブラをガン見)

ルッチ「そ、そういえば…」(滝汗で…以下略)

ジャブラ「そ、そそそうか?」(視線泳がせつつ)

カリファ「ふふ、ご想像にお任せするわ」(にっこり)

ジャブラ「カ、カリファ…っ!」(焦)

 

フク・クマ「おぉー」(祝福モード)

カク・ルチ・スパ「な…っ!」(がぼーん!)

 

ブルーノ「…ふぅ」(紅茶飲みつつ)

 

本日の勝負:カリファ姐さんの1本勝ち。