「あのよぉ…そんな眼ェしてガンつけるの止めてくんね?」

「うるさい、これが地だ」

ふぅ、と溜め息を一つ。

自分の目付きが剣呑なことは知っている。溜め息をつかれたところで、変わるはずがない。

 

 

欲シイモノ

 

 

いつの間にか、眼で追っている人間。

自分が何かに興味をもつなど、考えたこともなかった。

いや、かつては意識をしていた。

なにせ、自分よりも先輩で、自分よりも強かった男。

追いつきたい、追い越したいと思うのは男の性だろう。

 

 

だが…。

いまや、俺のほうがそれを凌駕する強さをもっている。

それは、ジャブラだって本心でわかっているのだろう。

だからこそ、会う度につっかかってきても、自分がこのCP9のリーダーを担い続けているのだから。

追いついて、追い抜いて…今や自分の方が追われる身。

だから、自分が意識するのではなく、意識をされる側だ。

 

なのに、どうしてこんなにも気にかかるのだ……忌々しい。

 

 

 

「………あのよぉ」

「…何だ」

「ソレ、止めてくんね?」

「……ソレ、とは?」

「……俺を睨むのをだよっ!」

 

久々の共に出かける任務。

別に睨んでいたつもりはないのだが、生憎と自然にジャブラに目が行っていたのは事実。

それすらも気にいらなくて、ぶっきらぼうに“これが地だ”と告げると、大きな溜め息を一つ。

まるで、駄々をこねている者に手を焼いているような態度に、余計苛々が募って、ルッチの眉根が寄る。

それが余計に剣呑な表情に見せているのだが、そのことには気がつかない。

だが、いつもと違って任務の時に無駄に噛み付くようなことはしないジャブラ。

それも、なんだか年上の余裕を見せられているようで面白くない。

そこから互いに口を開くことはなくて。

静寂を保ったまま、海列車は二人と目的の場所へと運んだ。

 

 

今日の任務はとても簡単なもの。

夜の闇にかくれて、ターゲットを消すだけ。

ずぶりと体を貫くと、その血飛沫に煽られるのも獣の性。

獰猛な気分になりながらも、今日の宿に戻る。

なぜだかひどく乾いていて、どれだけ酒を煽っても、乾きが収まる兆しがない。

気晴らしに外の空気でも吸うかと部屋から出てみると、目に入ったのは今日のパートナーの部屋。

 

「………」

 

ふらふらと誘蛾灯に誘われるかのようにドアノブに触れる。

無用心にも鍵はかかってなくて、そのままするりと体を滑り込ませると、すでに就寝後の様子。

すやすやと規則的な寝息をたてて眠る後ろ姿を眺めながら、一人思案する。

無防備に眠る背中。

おおよそ人の屍の上に立っている自分の同胞とは思えない。

だが、それは有事の際に飛び起きて対処できる自信の表れでもあるのだろう。

一向に起きそうにないその様子に、安堵するような、腹立たしいような気分で、どうしてこんなにも自分が掻き乱されるのか考えてみた。

そもそも、自分は歴代CP9で最強。

格下は相手にせず、自分の上に敵などない。

全てを見下して生きてきた、その不遜な自分こそロブ・ルッチなはずだろう、と。

 

それなのに、それなのに。

 

どうしてこんなにも気にかかる。

どうしてこんなにも自分を意識させたいと思う。

 

こんなくだらないことで悩むなど、本当に自分らしくない。

いっそ、このまま、寝首をかいてやってもいいのではないだろうか。

どうせ、このセカイでは自分が罪に問われることなどないのだし。

そんなことを考えている地点で、相当酔いが回っていたのだろう。

気がつかないうちに、ジャブラのすぐ傍まできていた。

………それも、相当の殺意を伴って、だ…。

 

伸ばした手は、銃を形作って、あと少しで触れるところまで近づく。

 

……と。

 

「止めとけよ」

「…っ!」

 

むくり、と起き上がって、伸びを一つ。

そうして小さく欠伸をしながら片目を自分に向けてくる男は、自分に殺されそうだったように見えない余裕がある。

内心の焦りを隠しつつ、平静を装うために一つ深呼吸をすると部屋に戻ろうと踵を返した。

 

「……何だ、死に損なったな」

「本当に殺す気なら、あんなに殺気立ってたら無理だ狼牙」

「オマエぐらい間抜けなら、問題はないかと」

「んっとに………素直じゃねェなァ」

「…何を……っ!?」

 

苦笑しながら、ジャブラは背を向けたルッチの両腕を掴むと、自分が寝ていたベットに放り投げる。

そうして、その上に馬乗りになると、眼下には不機嫌MAXの貌。

 

「……何の真似だ」

「よく言う…先刻殺そうとした人間の台詞じゃねェな」

「……殺されてェか」

「若いな…そう殺気立つなって」

 

そう言いながら、ルッチの顔を両手で固定して眼を合わせる。

こんなに近くでジャブラの顔をみるなど、初めてのこと。

いつものように眉根を寄せると、“そんな顔してんじゃねェ”と額を小突かれる。

 

「あのよぉ…いい加減にしてくんね?」

「……何をだ」

「欲しいなら欲しいって言えよ」

「…っ!」

「んな理性とか常識を俺の塒に持ち込むな」

 

そう言って苦笑するジャブラを見ると、いままでのもやもやした嫌な気分が払拭される。

そうか、そういうことか。

 

「欲しい、オマエが」

「……ようやく言ったな、馬鹿猫」

「……うるせェよ」

「可愛くねェな、素直におねだりできたご褒美やろうと思ったのに」

「は?」

 

ぺろり

呆然とするルッチの唇を舐めると、してやったりの笑みを浮かべるジャブラ。

 

「俺が好きか?」

「ああ、好きだ」

「なら、オマエのとこまで堕ちてやる」

 

本当にどうしてそう年上目線でものを言うのだ、この男は。

これは是非とも名実共に自分が上に立たなければと逆襲を開始するが、ジャブラも譲る気はないようで、体制を変えることができない。

 

「……おい」

「焦んなよ、続きは素面の時にな」

 

もう一度、啄むだけのキスを一つ落とすと、ジャブラはルッチの上に乗ったまま、眠りに落ちていく。

その様を見て、呆気に取られながらも、もう今までのような苛立ちはない。

 

そうか、これだったんだ。

今までになく穏やかな気分になり、ルッチも上に乗るジャブラを抱き込んだまま、穏やかな眠りに落ちていった。

本当に欲シイモノは、一つだけ。

 

FIN

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ルッチ「で?」(しっぽぱたぱた)

ジャブラ「は?」(小首かしげ)

ルッチ「今日は素面だぞ」(えっへん)

ジャブラ「……はぁ」(?マーク飛ばし飛ばし)

ルッチ「するぞ、続き」(ジャブラの首筋噛み噛み)

ジャブラ「ってコラ!痕つけんな!!俺ァ今から任務だっての」(ルッチを引き剥がしつつ)

 

ルッチ「……もしもし、長官ですか」(ゴゴゴゴっと黒いオーラで電々虫通話)

 

スパンダム『いや、あの、うんジャブラは任務行かなくていーよ』(滝汗)

 

ルッチ「だ、そうだが?」(得意気)

ジャブラ「意義有りだ!!」(机ばんばーん!)

ルッチ「意義を却下する」(がばっと押し倒し)

 

 

カリファ「で、結局私たちがお仕事なのよね」(溜め息)

カク「ま、ワシらも命は惜しいからのぉ」(粗茶ずずずっと)