目は口ほどにものを言う。

昔の人間は、うまいこと言ったものだと関心する。

目で訴えられることは、言葉を聞くより心に響く。

……まぁ、俺に心なんてあるのか、疑問ではあるのだが。

 

 

俺だけを見ろ

 

 

きっかけは些細なこと。

仕事を終えたばかりのジャブラが帰ってきて、久々に顔を合わせた。

 

「よう」

「おう」

 

たったそれだけの会話。

疲れからか、ジャブラの方から絡んでくることはなかった。

そのまま擦れ違って、俺は部屋へ、奴は長官の元へと歩みを進める。

と…

 

「ジャブラさん!!」

 

後ろから声が聞こえる。

この声は、新入りの声だ。

ま、仕事後のジャブラが相手にする訳がないのだが…

 

「おう、ネロじゃねェか!」

 

先ほどとはうって変わった、ジャブラの明るい声がホールに響いた。

 

「お久しぶりっしょ、シャウ!」

「変わらんねェな〜、ちったァ腕上げたか??」

「あ、当たり前っしょ!俺だってはやく六式使いになりたいっしょ!!」

「へーそりゃ楽しみだな」

「あ、あ、あ、後で少し…見てもらえないっしょ?」

「ん?おう、いーぜ。長官とこ報告行ったらな」

「やったしょ!シャウ!!」

 

自分に対するそれとは違い、明るく笑うジャブラの顔。

笑いながら、目の前のネロを見て話すジャブラを見ているのがたまらなく不快だ。

それを見ていたくなくて、ルッチは足早にその場を後にした。

 

 

 

 

「失礼しました」

 

長官への報告が思いのほかスムーズにいき、ジャブラは機嫌が良かった。

いつもなら、ここでさらに仕事がある。

それは書類整理だったり、書類を届けることだったりするのだが。

今日はカクとカリファの二人がかりで書類整理をしており、ジャブラに仕事の追加はなかったのだ。

この分なら、すぐに訓練室にいるネロのところへ行けそうだ。

しかし…

 

「おい…」

 

人生はそううまくいくようには出来ていない。

背後から声をかけられ、そのことを実感する。

 

「何だよ」

「ちょっと付き合え」

「は?え…ちょ……っ!?」

 

返事を待たず、ぐいぐいと腕を引くルッチ。

 

「待てって!」

「……何故だ?」

「あのな…俺はネロと約束があんだよ!!」

「……新入りとの約束を優先する、と?」

「先に約束したんだ、当然だろ」

 

自分に向かってくるジャブラ。それはいつものこと。

ただ、今日はいつもと違う。

その理由が“ネロとの約束があるから”という点だ。

いつもなら、自分だけをみているはずのその目が、他の者を見ている。

その事実は、ルッチを苛立たせるのに十分だった。

 

「………気に入らねェ」

「は…?」

「意地でもその約束、反故にさせてやる」

「え………」

 

呆気に取られるジャブラを抱き上げ、剃を使って自室へと向かった。

 

 

 

 

「てめェ…こりゃ何の冗談だよ!!」

「冗談?何がだ??」

「この手錠に決まってんだろ!!」

 

そう、ジャブラは後ろ手に手錠を嵌められていた。

ご丁寧にも、能力者の力を奪う海楼石の手錠だ。

 

「俺はいつでも本気だ、バカヤロウ」

「オマエのがよっぽど“バカヤロウ”だろうが、この馬鹿猫!!」

「口の減らない…大体、どうしてそんなにネロを可愛がる必要がある?」

「は?後輩の面倒見るのがそんなに悪ィことかよっ!?」

 

この期に及んで、まだそんなことを言うのか。

本当に憎らしかった。

 

ぺろり…

 

「ひゃ…っ!?」

 

自室に拘束しても、まだ自分だけを見ない目を、そっと舐めた。

眼球を傷つけぬように、それでいて、自分のものだと分からせるように。

 

「いっそ、抉ってしまおうか」

「抉って、どうすんだよ」

「俺以外見えなくしたい」

「は?」

「俺だけを見ろ」

 

これは、エゴだ。

それも歪んだエゴ。

とても正義の名を背負ったものの考えとは思えない。

 

 

ごん!!

 

「!?」

「ばーぁぁぁかっ!」

 

突如頭に衝撃が響き、頭突きされたのだと分かる。

 

「何を…」

「くだらねェこと考えやがって…」

「だが…」

「あのな…んなことしたら、てめェも見えなくなるだろーが!」

「え…」

 

確かに、その通りだろう。

この綺麗な二つの眼をコレクションにはできても、ものを見ることはなくなる。

 

「んとに…くだらねェ嫉妬してんじゃねーよ」

 

そういって苦笑するジャブラが愛おしくて。

歪んだ愛しかたを笑い飛ばしてくれる姿が眩しくて。

 

 

 

その唇にキスをすると、暴れる体を抑え、そのまま貪った。

 

FIN

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お・ま・け♪

 

「シャウ〜、ジャブラさん遅いっしょ…」

 

約束を守るはずのジャブラが現れず、ネロは不安げだった。

 

ガチャ…ッ!

 

「ジャブラさん!!」

「悪いな、俺だ」

 

やっと来たと嬉しげに駆け寄ったネロの前に現れたのは…

 

「ル、ル、ル、ル、ル、ル、ルッチさん!!」(何でここに??)

 

苦手としている諜報部員を目の前にし、ネロは完全に及び腰になった。

 

「ジャブラのやつ、風邪でダウンしてな」(しれっと)

「え…じゃ、見舞いに…」(大変っしょ!!)

「必要ない。それより、訓練をつける約束をしていたのだろう?」(待った!)

「シャウ?そうっしょ」(何で知ってるしょ?シャウ)

「なら、俺がつけてやる」(全力でな)

「えええええええ〜!!!」(嫌っしょ!無理っしょ!!死んじゃうっしょ!!!)

 

「問答無用だ、いくぞ」

「まってっしょぉぉぉぉおおぉぉおおっ!!!」

 

 

その日、エニエス・ロビーにはネロの絶叫が木霊したとか。

 

………合掌。

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おまけでギャグ落ちにしてみました。(シリアス台無し)

永遠のルイージ(パシリ)こと、ネロくんの不幸劇。

なんか主役を食っちゃったな〜(汗)

 

でも、基本はこんな感じ。

ネロはカリファに憧れ、ジャブラに懐いている気が…(っていうか願望)

 

ま、何はともあれ、ネロくん、小説登場おめでとう!!

 

ネロ「全然嬉しくないっしょっっっ!!!」(滝のような涙を流しつつ、机バンバン叩いて異議あり!)