「……大将」

「あらあら、脱獄は犯罪じゃなかったかしら」

「……だったら、このまま処罰すりゃいい」

「……面白いことを言うじゃない」

「そうすりゃ、CP9への処分下したことになるんじゃねェの」

 

 

自己犠牲=自己満足

 

 

面白い。本当に面白い。

青キジの頭に浮かんだのは、まずソレ。

 

司法の島での一件で、CP9はそれぞれ別の獄に入れられていた。

無論、能力者には力を封じる海楼石の手錠をして。

見ると、目の前の彼も確かに両手の手錠をしたままだ。

ましてや、件の海賊たちにやられた痛手とて癒えていないはずだ。

………ここまで脱獄して誰にも見つからずに来るのは難しかっただろう。

 

 

「ん〜、それは俺の管轄じゃないからねェ…何とも」

「俺らの中で“代表”を処分すれば早いんでしょうが」

「………あら」

「そうすりゃ、能力者育てるより割がいい」

「…ホント、こういうとき滅茶苦茶頭キレるのね、ワンちゃんのくせに」

「そりゃどうも」

 

茶化しにものってこない。

全く、調子が狂うっての…

 

「あのね…」

「新聞にあの一件が載っちまった以上、海軍本部内じゃなかったことにしたい」

「……よく、分かってるじゃない」

「とはいえ、お咎めなしっつーワケにもいかんでしょ」

「………」

「それなりの人間が責任取らなきゃなんねェ」

「で?」

「……本来なら長官なんだろうが、アノ人の情報収集能力は軍にとっても有益」

「………」

「だからって、あのバカ猫を消しちまうんじゃ、勿体ないだ狼牙」

「そりゃそーなんだが……オマエの価値も同等じゃないの?」

「俺の価値?ねェよ、んなもん……大将殿にそー言ってもらえたら本望だがよォ」

 

自嘲気味に嗤う顔。

そんな顔見たことがなかった。いつでも、どんな状態でも笑っていたのとは大違いの、顔。

 

「でも、そー言ってくれるんだったら、俺一人で責任とれるってことだ」

「………ま、曲解すればね」

「そして、大将青キジならそれが可能」

「………」

「でもって、一番戦力ダウンにならねェ、だろ?」

「………確かに」

 

確かに、ジャブラの言うとおりだった。

少なくとも、ロブ・ルッチの処分は誰もが渋っていたのだし、スパンダムとてそう簡単に処分してしまえる絵柄じゃない。

だからこそ、どう処理していいのか困っているというのが現状ではあった。

つまり、ジャブラの言い分は全てを丸く治めるのに最も有効だとも取れる。

 

かたん…

この時になって、ようやく青キジは椅子から思い腰を上げた。

そうして、ジャブラの傍により、至近距離で対峙する。

……ジャブラの眼は揺れることなく、覚悟の宿った目をしていた。

するり、と冷気を纏わせた指を首筋の急所に滑らせても、微動だにしない。

 

「怖くないの」

「……何にです?」

「死ぬこと」

「全く。それよか、他の誰かになったほうがよっぽど寝覚めが悪い」

「………ホント、いい覚悟ね」

「……っが、はっ!?」

 

にっこり笑って鳩尾に拳を入れる。

話している最中に、まさかこうなるとは予想もしなかったのだろう。

不意を付かれ、身構えることなくモロにそれを受け、血反吐を吐いて倒れるジャブラ。

 

「っな…ん………で……っ」

「そーゆーのって何で言うか知ってる?」

「っ、……っ?」

 

のたうって苦しげに、怪訝そうな顔をコチラに向けるジャブラ。

 

 

 

 

「その自己犠牲って、只の自己満足って言うのよ」

 

 

 

 

見表情のままそう告げると、今まで真っ直ぐだった瞳の奥が一瞬だけ揺らいだ。

それに少しだけ気をよくして、青キジはその首筋に一瞬で手刀を入れる。

 

………ジャブラは床に這ったまま、意識を失った。

 

 

 

 

 

 

「ん゛んっ」

「あ、起きたじゃない」

 

苦しげに呻いて目を覚ますと、ぬっと現れる大きな人影。

言うまでもなかった。

 

「ぁ…ぉ、キジ……」

「薬使ったから、もうちょっと目ェ覚まさねェと思ったのに」

 

残念、と冗談めかして笑う青キジの、目は全く笑っていなくて。

 

「何を、言って…んで?」

「あ、そうそう……キミ、もう死んでることになってるから」

「………は?」

「そーでもしねェと、下に示しがつかなかったのよ」

「………はぁ」

 

じゃぁ何で自分はここにいるんだろうか、と言いたげな目のジャブラに青キジは苦笑する。

 

「あのね、俺、大嫌いなの」

「は?」

「自己犠牲とかそーゆーやつ」

「………」

「でも、同時にジャブラに滅茶苦茶興味湧いたんだわ」

「………」

「だからもう、ジャブラは俺のってワケ」

「……は??」

「隠蔽と元帥の説得に骨折ったのよ、俺」

「な…んで……?」

「………さぁ」

 

本当は。

揺らぎもしないで自分が犠牲になろうとする姿に憤りを覚えたから。

この世界にいて、明るさを失わないと思っていた君が、あんな荒んだ目をするのが気に入らなかったから。

だから、元帥の説得やら、処刑の偽装やらに奔走したのだ、この俺が。

驚愕の表情を浮かべた残りの諜報部員の顔は本当に見物だった。

ルッチの顔があんなに崩れるなんて想像できないじゃない、普通…

 

そうして、自分のモノにしてしまった。

自己犠牲なんてくだらない真似をされては興冷めだ。

ましてや、「仲間のために」なんてくだらない自己満足で死なせてやるのなんか御免だった。

 

 

 

だから。

 

「だから、これからここで暮らしてもらうから」

 

あぁ、そんな顔しないで

ただ傍にいて、いつものように何も考えずに明るく笑っていれば、それでいいの

 

 

 

「ま、俺が飽きたらちゃんと殺してあげるから」

 

だから、それまでは精々楽しませて頂戴よ。

だって俺はキミが大のお気に入りなんだから。

 

 

 

そう、これからはずっと一緒。

 

FIN

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↓以下、雰囲気を壊したくない方は読むのをお止め下さい。

 

はい、そんな訳でジャブラさんは大将のペットになりました〜。

 

ジャブラ「ペットじゃねェ!!」(机ばんばーん!)

くずのは「じゃ、情夫?」(くすくす)

ジャブラ「ちーがーうー!」(しくしくしく)

くずのは「だって仕事しなくて飼われてんですから」(ふぅ、とお手上げモーション)

ジャブラ「仕事!大将、仕事なんかねェの!?」(焦)

青キジ「あらあら、監禁相手に仕事させるの、俺?」

ジャブラ「監禁!?」

くずのは「だってこっから出られないし、誰とも会えませんからねー」(生暖かい目)

ジャブラ「仕事あるでしょうが!いっそ給仕とか掃除とか洗濯とかっっ」(涙目)

青キジ「それ、俺の嫁さんになるってこと?」(大胆だねェ、とジャブラをぎゅうっ!)

ジャブラ「ちーがーうーっっ!」(じたばた暴れ)

 

ってなワケで、永久就職が決まったジャブラさんでした(親指ブッ立て!)