「大将、どういたしましょう」
「構わん、捨て置け」
「し、しかし!」
「正義の前に、力なき者などいらん」
焦がれてやまない
窓辺から外を見上げて、何事もなかったかのように台詞を吐くその後ろ姿。
相変わらずの暴君ぶりだ、とジャブラは思った。
彼の下へ赴いたのは、風のように自由なもう一人の大将からの言伝あってのことだったのだが…。
はっきりいって、ジャブラは彼が得意ではなかった。
正義のために。
正義の名の下に。
そういって、自分の正義の前に、必要のないものを全て切り捨てる、その姿。
…ある意味、大将としては申し分ないのかもしれないし、そうでなければこの地位まで上り詰めることは不可能なのかもしれない。
ただ、自分の身近にいるあの大将とは偉い差だと思わずにはいられなかった。
「………大将」
「…下がれ」
「は、了解しました」
とにかく、声を掛けねば始まらない。
ジャブラは意を決して深呼吸を一つすると、赤イヌに声を掛ける。
途端、そう言うのを待っていたかのように、静かに副官を下がらせる。
そうして彼がぱたりと扉を閉めると、わずかな沈黙が流れる。
無論、その間も赤イヌは微動だにしない。
「さて、今度は何をやらかしたんだ…あのバカは」
唐突に。
くるりとジャブラの方を向いて、沈黙を破ったのは赤イヌの方。
流石に付き合いの長い悪友のことだ、しっかりお見通しということなのだろう。
「大将青キジより…“ちょっと厄介な仕事あったから、しばらく北の方へ視察の名目で出かけるんで…ま、あとはおまかせしとくから”だそうです」
「……ほう」
あまりのメッセージだと自分ですら思うのだが、それを聞いても尚、平然としていられる赤イヌは本当に精神の鍛錬ができていると思う。
「い、以上デス」
「全く、アレが俺とおなじ大将だと思うとゾッとするな」
「………はぁ」
「気のない返事だな…ま、アレが上官だったおかげで貴様らはラッキーだったな」
「え?」
「貴様、また派手にやったようじゃないか」
すぅ、と目が細められていくと、ジャブラの心臓はビクリと跳ねる。
とはいえ、何のことを指しているのかさっぱり分からない。
「この間の“任務”…随分と余分に始末したようだな」
「………す、すみませ」
「俺の管轄だったら、そんな諜報活動されたら即行切り捨てるがな」
「………」
言葉一つひとつが高圧的で、それでいて体中から静かな殺気が満ちるのが分かる。
全く、海軍にあって一番殺し屋に近い自分がこんなに竦み上がっているなんて。
こんなもの、笑い話にもならない。
それなのに。
静かに興奮を感じている自分がいた。
初めてあったときに感じたのは、ルッチに似ているということだった。
それは、年若いあの男の力を目にしたときと同じ感覚。
必要のないもの全てを切り捨てて、ただ独りでがむしゃらに。
自分の信じる正義のために。
だが、彼の手法それをはるかに上回っていた。
仲間の船が占拠されたと分かると船ごと打ち沈める。
部下が窮地に陥れば、そのまま自爆すればいいと言ってのける。
必要とあらば、絶対に勝てないアプローチで囮にすらさせる。
その圧倒的な冷酷さに、魅せられた自分がいるのも確かだった。
「や、やっちまったもんは仕方ねェでしょう…」
「…一理あるな」
「上官の奔放さは謝ります、大将赤イヌ」
「………」
「では、俺ァこれで……」
とにかく、この場から逃げてしまおう。
伝えることは伝えたのだから、とジャブラはそのまま退出を申し出る。
だが、いつの間に移動したのか、赤イヌはジャブラすぐ傍に来ていて、手を掴んで阻む。
「待て」
「…な、何でです?」
「何故…」
「?」
「何故、あの男はわざわざオマエをここへ寄越すんだ?」
「……さァ」
「“言伝”だということは……アイツは貴様に会って話をしていくのか?」
「…まァ、一応」
「………」
しばらく流れる沈黙。
今度は、先に沈黙を破ったのはジャブラの方。
「赤イヌ?」
「随分と……気に入られているんだな」
「は??」
あまりの的外れな発言に、ジャブラは呆然と目と口を見開いて動かない。
それを全く気にかけず、紅イヌはジャブラの顎に手をかけ、検分するかのように眺める。
「貴様をぐちゃぐちゃにしたら、アイツはどんな顔をするんだろうな」
冗談めいた台詞も、淡々と、しかも眇めた眼で睨まれながら言われると、かなり笑えないものがある。
冗談でしょう、と笑おうとしたが、ぐ、と顎にあった手が首下を圧迫してきて、それすらままならない。
「なら、やってみますか……そー簡単にゃ壊れねェとは思いますが、ね」
不意に。
ジャブラの口を突いてでたのはこの台詞。…うんと挑戦的な。
だって見てみたくなったのだ。
この狂気めいた、氷のようなこの男の本質を。
何もかも切り捨てる、それだけの決定を下せる男の強さを。
そう、この暴力的なまでの強さ。
力も心も、その強さに………焦がれてやまない。
「………おもしろい」
口の端を僅かに吊り上げたその顔は、初めて見た赤イヌの表情の変化。
ダン…っ!
そうして、ジャブラは床に投げつけられた。
受身すらできないほどに強く。
鉄塊すらできないほどに早く。
さぁ、もう後戻りはできない。
FIN
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寒い季節は、鬼畜の筆が進みます。でもってダークになりがち。
だって寒いの嫌いなんです。センチな気分と寒さへのテンションダウンが原因かと。
カリファ「………」(じーっとジャブラ見つめ)
ブルーノ「………」(じーっとジャブラ見つめ)
ジャブラ「な、何だよ…」(滝汗)
カリファ「やっぱり…アナタ完全にマゾだわ」
ジャブラ「“マゾ”ってなァどーゆーことだ!しかも“やっぱり”って何が!?」(机ばんばーん)
ブルーノ「これに関しては、俺もフォローできんぞ」(溜め息)
ジャブラ「ブルーノぉぉぉぉぉ…っ!!」(ブルーノの肩揺らしつつ)
カリファ「フォローのためにわざわざついてきてくれたブルーノすら何も言えないほどよ?」(自覚なさい、と眼鏡をクイ!)
ジャブラ「何の自覚だァァァ…!!」(机だんだんだーーんっ!)
ブルーノ「ルッチとカクを置いてきて正解だったな…」(遠い眼)
カリファ「大変だったのよ?暴れる二人に手錠かけるの」(にこにこ)
ジャブラ「オマエ、完全にサドじゃねーかっ!!」(びしっと指差し)
カリファ「完全なサディストですが、それが何か?」(眼鏡、クイ!)
ジャブラ「え゛…っ」(滝汗)
ブルーノ「今頃気付いたのか?」
カリファ「今度は私が苛めてあげましょうか?」(鞭、ビシン!)
ジャブラ「え、遠慮しとくわ…」(ガタブル)
あーはっはっは!ジャブラさんは強い人大好きなんですよ、きっと。
だからカリファ姐さんが道力上げればきっと“えすえむ”できますって(にっこり)
ども、ついに書きました!赤イヌ×ジャブラです。
なんか愛とか1ミクロンも感じられなくてすみません。これを表に置こうってんだから、ねぇ?(聞くな)
ちょっと続けよっかなぁって…。とりあえず、次を書くなら紅イヌ視点で「惹かれてやまない」かな。
表だとそんな感じ。元気があれば裏まで続けようと画策中。