「「「………」」」

いや、だから……そんなに凝視されると困るんだけどよぉ…

「あら、足を開いちゃ駄目よ、ジャブラ」

「………だったらこんなもん着せるなよ、オマエ」

もう本当泣きそうだ…。

 

 

偶然から起きた奇跡

 

 

遡ること二日前。

 

“ジャブラさん、助けてください!!”

“我々では手に負えません!”

“んァ?”

 

事の始めは、衛兵たちが部屋まで飛び込んできたことだった。

聞けば、我らが長官殿が、暇を持て余して、ファンクと鬼ごっこだか隠れ鬼だかを始めたのだとか。

おかげで、塔内は壊れた箇所も多いようだ。

…残念ながら、本日は俺以外みんな任務に出ている。

 

『何とかしてください!!』

 

心底面倒だ、と思うのだが、こちらに向かっているということは、俺たちの部屋まで破壊されかねない。

仕方ねェ、と爆音の向かう音の先へ向かうと、着いたのはカクの部屋。

まさか、と嫌な予感がして中へ入ってみれば。

 

「………」

 

やはり、というか当たってほしくなどなかったのだが。

 

「くそ、やっぱ見つかっちまったかぁ」

「ぱおーん♪」

 

カクの部屋の壁が壊れ、砂塵となる中に尻餅をついた人物と、大きな象の影が見える。

全く、予想を裏切らない人だ、とジャブラは大きく溜め息一つ。

 

「お?何だ、ジャブラ!オマエも混ざるか??」

「ぱぉ、ぱおーん」

「馬鹿言ってないでさっさと片付けしねェと…カクにどんな報復されても知りませんぜ?」

「うぉ、やべェ、ここ…カクの部屋じゃねェか…」

「気づいてなかったんスか…とにかく立って……」

 

このままじゃ埒が開かないと、長官を立たせるために近づくジャブラ。

だがそれよりも早く、長官は自分で立ち上がろうとする。

と、その時。

つるり…っ!

 

「え゛……」

「うぉ、やっぱ予想裏切んねェな、オイ!!」

 

カクの部屋は薬のビンの宝庫である。

これまでの“遊び”において、何とか薬棚は無事だったようなのだが、ビンが一つ転がっていたようで。

お約束どおり、長官はそれによって足を滑らせ、転ぶ。…無論、棚の方向へ。

当然、ジャブラとしては放っておきたいのだが、この非力な長官殿のこと。

棚の薬品でかぶれただとか、打撲で全治半年とかになってもおかしくない。

ここで彼が取れる選択肢は二つ。

一つは、嵐脚で棚ごと吹っ飛ばすこと。

もう一つは、鉄塊をかけたまま、長官を庇うこと。

ここで、ジャブラは大きな選択の間違いを起こした。

これ以上の面倒ごとは嫌だとばかりに、鉄塊をかけ、すばやく長官を庇うことを選んだのである。

 

びしゃ、べちゃぁぁ…っ!!

何の薬品か分からないものが、次々とジャブラの体にかかる。

とはいえ、今の状態ではダメージなど受けるわけはなく、ただ冷たさを感じる程度だ。

そうして、倒れてきた棚までも、ジャブラの体の硬さに負けて砕けちった後、ジャブラは自分が体を起こして抱き込んだ長官の様子を伺う。

 

「…っとに、何やってんです」

「す、済まねェ……え゛ええぇぇぇぇぇ…っ!?」

「あ゛?何驚いてんです?」

「いや、おめっ、それ……何だ?」

「………それ?」

 

長官の指差す先は、ジャブラの胸元。

いつものように前を閉じていない上着とネクタイ…はいつものままだ。

しかし。

 

「亜fh;b;jkランgじゃsk…っ!?」

 

それらを押し上げるようにして重力にしたがい、長官の方に向かっているのはおおきな膨らみ。

その……男のそれとは違い、ただやわらかい胸元が。

 

「何っっっじゃこりゃァァァァァ……っ!!!!!?????」

 

その日一番の悲鳴が、エニエスロビーに木霊した。

 

でもって、その時、不分にもカク、カリファ、ルッチの3名が任務から帰ってきた。

当然、ジャブラの悲鳴ともなれば、人智を超えたスピードでここへやってくる訳で。

 

「何じゃ!」

「どうしたの?」

「…何だ、騒々しい」

 

口々にやってきた3人が見たものは、いつもより膨らんだ上着の胸元を必死に手繰りよせるジャブラと、倒れたままわたわたと驚愕している上司の姿だった。

 

 

 

で、場所をロビーに移動し、事情聴取。

つまりは、カクの部屋のいくつかの薬品を被ったせいで、ジャブラが女の子になっちゃった★という訳である。

 

 

 

「成程、それでこんな風になってるのね」

「いやぁ、長官さすがじゃの〜♪」

「こうしてみると、なかなか美人じゃねぇか、ジャブラ」

「……てめェら3人とも楽しんでやがンだろ」

 

3人が3人ともニヤけっぱなし。

カクなど、部屋が半壊したというのに長官を脅すことなくむしろ褒め讃えている。

こんなことなら本気で見捨てるべきだった、とジャブラが落胆していると、よこからぬっと手が伸びる。

 

「ん?」

「でもいつまでもその目に毒な格好じゃ困るわね」

「…え?」

「さ、着替え着替え」

「えっと…」

「今は立派なレディですもの、その格好じゃ破廉恥よ」

 

言いながら、ジャブラはずりずり隣の部屋へ連行される。

……が。

 

「ちょっと、何!?この大っきい胸はァァァァ!!下手すれば私よりあるじゃない」

「わっ、バカ!手ェ突っ込むな!って、ちょ…っ!?」

「うわ……コレ凄い」

「ちょ、や…やめろって、や、も……ぁっ!胸揉みしだくなァァァァ……っっ!!」

 

「「「………」」」

 

扉から聞こえてくる悲鳴に、残された3人は心底羨ましがったのだとか。

 

閑話休題。

 

そんな訳で女の子になっちゃった狼さんはもう完全にアイドル状態。

毎日カリファの着せ替え人形と化し、ミニスカートが多いことに半泣きだった。

どこで話を聞きつけたのか、青キジもダンボール一杯女物の服をもってやってきて、何やら仕事の名目で居座っている。

生きた心地がしないとはこのことだとジャブラは心底思った。

 

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