ちゅ…っ

リップ音をさせて唇を離すと、頭上から声が降ってくる。

「…20点」

「な…っ!ふざけんなよ、人がこんなこっ恥ずかしいことしてるってのに!!」

 

 

KISS

 

 

始まりはいつもほんの些細なこと。

ジャブラとルッチはいわゆる恋人というやつで。

その割にジャブラの方が消極的なのが不満でもある。

 

「という訳で、たまにはオマエからキスしてみせろ」

「いきなり何を言い出すかと思ァ、頭沸いたか?」

「俺は正常だ」

「…そりゃ正常って言わねェだ狼牙」

「大体、今更そのぐらい照れることでもねェだろ」

「う…」

「それとも何だ、自信がないとでも?」

「な…っ!ンな訳ねェだろ!!キスぐれェよォ!!」

「なら、テクニックをご披露いただこうか?」

 

などと売り言葉に買い言葉。

本来なら手をつなぐだけでもまだ不慣れだというのに、ルッチの口車に乗せられるジャブラ。

 

しかし、どうやったらいいものか…

 

「とりあえず、目ェつぶれ」

「分かった」

 

素直にルッチが目を閉じたので、とりあえず言われるままにキスを唇に一つ。

ちゅ…っ

リップ音をさせながら、ついばむようなキスをすると、すぐさま口を離す。

 

「………」

「どーだ!!」

「…それだけか?」

「は?」

「……20点だな」

「え???」

「仕方ない、手本を見せてやる」

「え、ちょっ、ま…っん、んぅ……ぁ…っ!」

 

がしり、と後頭部を掴まれて、濃厚に舌を絡めとられる。

いきなりだから、ジャブラの狼狽も普段の倍。

まともな思考なんか残ってはいなかった。

 

「このぐらいのサーヴィスはしてほしいもんだが?」

「て…てんめェ…このバカ猫がァ!!」

「次はもう少し点数を上げるんだな」

 

そう挑発されて。

次なんかないと突っぱねてしまえばいいのに、生憎とジャブラにはそれができない。

…まぁ、ルッチもそれを見越して挑発したところもあるのだが。

それからも何度かキスしてみたものの…

 

“舌を入れればいいだけか?”

“そんなに力を入れてたら歯がぶつかる”

 

などと言われるばかり。

ちょっとこれは男としてかなりプライドが傷ついた。

 

 

 

「はァ…」

 

キスの仕方で悩むなんて、思春期の乙女じゃあるめェし…

 

「あら、セクハラね、ジャブラ」

「あ?」

「こんな美人を目の前にして、溜め息だなんて」

「あ、いや……悪ィ」

「……あのね、冗談なのにそこで謝られると、笑えないじゃない」

 

言葉とは裏腹に、くすくすと笑いながらジャブラのカップに紅茶を注ぎたすカリファ。

 

「で、何の悩み?」

「何でもねェ」

「……私には言えない?」

「だから、違…っ」

「能力使って聞いてもいいんだけど?」

「〜っ!」

 

どうも純粋に力技ではないカリファのアワアワの実の能力がジャブラは苦手だ。

四肢から力が抜けるというのは自分でなくても、諜報部員としてあってはならないこと。

ましてや、ジャブラはこの年若い同僚に弱い。

どちらに軍配があがるかなど、明らかだ。

 

「……笑うなよ」

 

前置きを一つ置いて、ジャブラはおおよその事情をカリファに話した。

 

「………」

「…何だよ」

「いえ、随分可愛らしい悩みなのね」

「るせェ!!」

「何なら、私が実地で教えてあげましょうか?」

「はっ!?いやいやいや、それは絶対マズい!!困る!嫁入り前に!!」

 

ずい、っとカリファが身を乗り出すので、その肩を持って止めると、冗談よ、とカリファはまた鈴の音のような声で笑う。

 

「私が教えたかったけど…いいわ」

「?何か言ったか??」

「いいえ、何にも」

 

にっこり、と笑うカリファの中には計画が出来上がっていた。

 

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